February 06, 2005
第3回リアクション E1 S−1
第3回リアクション E1 ハスター
ある父と娘に関する物語・A
父の厳しさが僕の人格陶冶に影響を与えた。
僕は中途半端が嫌いな性格になった。
母の明るさが僕の人格陶冶に影響を与えた。
僕は素直な性格になった。
いずれ、僕が誰かの人格陶冶に影響を与える。
それは父と母の影響でもある。
S−1 葛藤の湧き場所
僕は青色の部屋に閉じ籠もっていた。<誰でもない>さんの話したことは僕の思考を暗い方へと沈み込ませていた。
全くその前の月の楽観的な考えは、一つも浮かんでこなかった。あの時、もっといろんな状況について考えていたら、と後悔さえしていた。例えそう考え込んでいても、現状を変えることはなかったと分かっていても……。
部屋はベッドと小さな机があるだけだった。窓には板が打ち付けられていて、窓本来の役割を果たしてはいなかった。壁には二か所に燭台があり、その蝋燭の灯火でものを見ることができた。
僕はそのうちの一つをじっと見つめて黙考していた。揺れる小さな炎の中に妙案が隠されている訳でもないのに。
<誰でもない>さんは僕たちをどうするのだろう? 彼女は人間を滅ぼす魔法を作り上げようとしている。もし僕たちが人間だと知ったら……。
この前彼女と話したときはそれほど殺気というものは感じられなかった。それは話し相手がエルフだと思い込んでいるからかもしれないし、彼女の中で続いている戦争という状態が、その殺意を覆い隠しているのかもしれない。
どうして戦争なのだろう? どうしてみんなで仲良くできないのだろう? 学院で習った歴史では、戦争を終わらせるために戦争をした、と教えられた。そうして200年前、今のフラニス家の祖先が国を興した。
でもどうやってみても、エルフから見たら人間は侵略者なのだろう。<誰でもない>さんがやろうとしていることは、彼女たちからみれば正義……?
だからといって人間を全て滅ぼすなんて許される訳がない。僕たちの祖先の罪を、僕たちが贖うなんて事は出来ないし、既に新しい関係が確立しているのだから。多分、この時代のずれが問題なんだと思う。
老いを遅らせる魔法がかかっているここに、彼女はいつから籠もっているのだろう?
これからどうすればいいのか? この点については僕はちっとも結論が出ないでいた。
そもそも、この館から出たいのかどうかさえ分からなくなってきていた。
出ることが出来るのかも分からないうちに、出た後のことを危惧していた。
外に出られるということは、あの魔法が完成しているということだから、人間が滅んでしまうかもしれない。そんな大それた考えではなかった。家に帰ると、今まで何をやっていた、と怒られるかもしれない。学院もやめさせられるかもしれない。こんな個人的なことを考えていた。
でも、なぜかそんな個人的なことが多くを占めていた。
ジェイルはどうするのだろう? やっぱり外に出たがってるのだろうか? もし出られたとしても、ジェイルとはもう会えなくなるのかもしれない。そう思うと胸が苦しくなった。なぜだか分からないけど、胸が苦しかった……。
と、その時、グーッとおなかが鳴った。僕は自分の身体に少し飽きれた。
悩んでいても、落ち込んでいても空腹はやってくるということを、初めて知った。
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