June 09, 2006

第9回リアクション E1 S−2



 S−2 夜空の向こう

 僕達の旅は楽といえば楽だったし、厳しかったといえば厳しかった。確かに言えることは楽しかったと言うことだ。
 食料が少なくなればジェイルが狩りをした。お金はジェイルが家から多めに貰っていたので余り困らなかった。だけどそこを尽き始める前に、リンプさんがアコーディオンを演奏して稼いでくれていた。
 僕はと言えば、星を記録するばかりで、他の二人にはちょっと申し訳が立たなかった。でも誰も、不平を漏らすことはなかった。
 僕達は遠く西域まで見聞を広げた。

 数年が経ち、僕達は帰ってきた。
 僕は暫く家で休んだ後、クォリネへと向かった。研究所を建てるためだ。
 クォリネは変わっていた。観光地としてのクォリネはそこにはなく、あの宿屋も無くなっていた。その代わりに大きな農場が村の横にあった。
 村人も昔のように大きな麦わら帽子を被らなくなっていた。日差しもそれほど強くなくなっている。
 大農場の入り口には、セリアが居た。弟は学院を卒業した後、ここの自警団団長として働いている。この村のことが気に入ったらしい。
 ただいま。おかえり。と、僕達は少ない声を交わした。
 そして村長さんから面白い話を聞いた。

 僕は館の跡地に研究所を建て始めた。セリアや村の人たちも手伝ってくれた。
 なぜ研究所をここにしようと思ったのか、明確な理由は自分にも分からなかった。以前のように星がよく見える地でもないのに。
 数日が経ち、建物も形になってきた頃、ジェイルが王都での対応を終えてやってきた。
 へぇ、だいぶ出来たね。
 研究所を見、そんな感想を述べる。
 旅をしていたときより綺麗な身なりをしていた。彼女は旅から帰ってから、正式に家を継いで、今は当主の身だった。
 うん、領主様のサポートもあるしね。
 僕がそう言うと、何だ知ってたのか、という表情を見せる。
 実は僕達が旅だった後、ノースウィンド家はクォリネ村を知行として受けるくらいにまでなっていた。これもウォレンの手腕のおかげらしい。そして今のクォリネの領主はジェイルなのだ。
 その時、ノックの音がした。
 やってきたのはリンプさんとラグさんだった。
 リンプさんはいったん僕達と別れて、リュミエールやアイオリを見て回っていた。丁度物品交換のためにリュミエールに行っていたラグさんと会ったそうだ。
 リンプさんが口を開く。
 私にも何か手伝わせてください。
 もちろん。こちらからお願いしたいくらいだよ。
 彼女は故郷に戻ってきた。僕がここに研究所を建てた理由は、そこにあったのかも知れない。
 じゃ、研究所開設のお祝いに一曲披露しますか。わたしも普段はクォリネに居ますから、何かあったら手伝いますよ。
 そう言ってラグさんは歌い始める。


 星の暖かい光は
 壮美と愉快を教えてくれる
 星の冷たい光は
 苦痛と困難を教えてくれる

  でもいつまでも
  教わり続ける訳にはいかない

 全てが運命通りでも
 自分の運命くらい自分で操る
 星の軌跡に教わった
 最後のこと…





Posted by hastur at 08:33 P | from category: リアクション | TrackBacks
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