April 04, 2006
第7回リアクション E1 S−1
ある過去に関する物語
みんな過去に過ちを犯している。
そしてその罪を降り払うため、赦しを得るために自分を変えていく。
だから過ちは必要悪なのだ。
S−1 ゲームの規則
わたしはラウンジにいた。ラウンジはホールの右側の扉、その内の柱時計側の扉の奥にあった。中は木の木目を活かした美妙な家具が揃っていた。
この部屋に一緒にいるのはルアとジェイル。そしてジェイルの頭の上にいる青い鳥とわたしだった。
なぜここに集まったのかというと、わたしが<誰でもない>に会わせて欲しいと頼んだからだ。それはごく当然のことでしょう。ルア達から聞いた話からすれば、全ての答えは彼女の元にあるようでしたし……。わたしはこの館についても、人間を滅ぼす魔法に関しても、彼女が何を考えているのかも、ほとんど知らないのだ。
ジェイルは、リンプならルアがここに来るように頼んでるから、とここで待つように言った。
彼らは<誰でもない>のことをリンプ・オルフェと呼んでいる。彼女は最初、名乗る名前らしい名前がなかったので、ルアが先日リンプという名を付けてあげたらしい。私もそれに習って彼女のことをリンプと呼ぶようにした。
わたしたちはリンプがやってくるまでラウンジで、カードをやって遊んだ。それは昔の貴族が好んでやったという、ロイヤルハウスと呼ばれるゲームだった。
これは王、城、王子、騎士といった種類のカードを出し合って、上手に得点を稼ぐというルールだった。カードには強さが決まっていて、吟遊詩人のカードは弱いほうから二番目だった。そして、一番弱いカードは魔法使いだった。ただし魔法使いは見せ札の色を変えることが出来るという、特殊な機能があった。
基本的に三人用のゲームなので丁度良かった。そういえば昔、家族でよくやりましたねぇ、と少しだけ想い出が蘇った。
ゲームの方は一方的にルアの負けだった。このゲームは一番強い竜のカードの使い方が大きな分れ目になるのだが、彼は上手くそれを使いこなせていないようだった。
相変わらず弱いなぁ……。
ジェイルはちょっとからかうようにルアにそう言う。彼は苦笑いするだけだった。すぐに表情で戦略を読まれてしまうのも、彼の弱点になっているようだ。
そうやって、カードを十回配ったところでホールの方から柱時計の鳴る音が聞こえてきた。
それに合わせるように入口の扉が開いて、リンプがラウンジに入ってきた。わたしは扉が正面に見える席に座っていたのだが、彼女の白さにまず驚いた。
長い髪は真っ白で、着ているものも無垢のゆったりとした服だった。両の耳は細長く、確かにエルフのようだった。
見た目の年齢はわたしとそう変わらないくらいに感じた。しかしエルフの年齢は当てにくいものだし、前に聞いた話だと、この館には老いの速度を遅らせる魔法がかかっていると言うことだから、実際にはわたしなんかより遙かに多くの年月を生きているのだろう。
着ているものや装飾品から、お洒落というものからは無縁のような感じを受けた。生まれてからずっとここに籠もって魔法の研究を続けていたということを考えると、それも少し頷けた。
どうも初めまして。ラグナセカ・タイタヒルと申します。
わたしは立ち上がって、少し固目の挨拶をした。 こんにちは、ラグナセカさん。私がこの館の主です。
彼女はそう言葉を返した。名前を名乗らなかったのは、まだリンプという名前を使いこなせていないからだろうか?
ケーキはどうでした?
あ、美味しくいただきました。
これはお世辞ではなく、本当に美味しかったのだ。やはり彼女が焼いたのでしょうか?
リンプはわたしの対面、ルアの背後に立っていたのだが、おもむろにルアの手札から一枚のカードを抜き、場に出した。それは赤の騎士だった。
そして次の手順で竜を出させた。
ほら、こうすれば竜がちゃんと生きますよ。
あ、本当だ……。ありがとう。
これがルアの初勝利だった。
Comments
No comments yet