September 05, 2007

第7回リアクション E1 S−4


 S−4 大いなる野望

 テオフラスト・パラケルススの部屋にはミアとカヲルが来ていた。
「師匠、肩こってない〜? カヲルちゃんと二人でもんであげるねっ。」
 どうやら、ご機嫌をとろうということらしい。
「お主な……《アルカディアにもいるもの》ならば、肩こりくらい治せるわい。」
 一応相手にしてるが、テオフラストも適当にあしらっている。
「ね、可愛い人工生命とか、他にはいない?」
「ウサギヘビっていうのがおったが……今はグレイが持ち出しとるぞ。」
「ちぇ〜。」
「見たかったね。」
 そこに、当のグレイが帰ってきた。
「先生、この通り、捕まえてきました。このゴムネズミで。」
 そう言って、電気鼠とゴムネズミを差し出すグレイ。
「うむ、よくやった! これでお主も卒業じゃ。」
「グレイちゃん良かったねぇ〜。」
 場が明るくなる。しかし、次のテオフラストの問いであっさりとその雰囲気は壊れる。
「して、ウサギヘビはどうした?」
「え……。電気鼠の電撃を受けて……。」
「もういい、わかった。」
 テオフラストは諦めたように手を振った。
「というわけでじゃ、ウサギヘビを見せる事は出来なくなったの。残念、残念。」
「そんなぁ〜。」
 非難の声を上げるミアとカヲル。
「それより……本当に卒業でいいのでしょうか? 私はまだ12年目ですが。」
 確かに12年での卒業は極めて稀だ。大抵は卒業年度の最初と次の年くらいは落第するものと相場が決まっている。
「その事ならば、気にせんでも良い。儂も、助手が欲しかったところでの。」
 カラカラと笑うテオフラスト。何か裏があるのだろうか?
 その時、扉を叩く音が聞こえた。
「俺だ。入るぞ。」
 無作法に入って来たのは《怪異学派》学部長、インタ・スタアゲだった。傍らには一人の弟子を連れている。15年生の学生、セルフィ・ウェイバーだ。
「あのぅ……失礼しますぅ。」
 こちらはいかにも申し訳なさそうに入ってきている。
「何のようじゃ? お主も選挙で忙しいだろうに。」
「まあ、その話だ。……ちょっとその辺のこわっぱには席を外してもらおうか。」
 不気味な迫力を湛えた目で、グレイやミア、カヲルを威圧する。
「そうじゃな……こやつはもう、儂の助手じゃ。同席しても構わんじゃろ?」
 テオフラストは杖の手でグレイを指差し、そう促した。

「今日は土産を持ってきたぞ。有難く受け取れ。」
 ミアとカヲルが出て行った後、口を開いたのはインタの方だった。なにやら、棺桶の様な箱を差し出す。
 中には人間の物の様に見える、手と足、目玉が入っていた。
「その胴体と、ぴったりくっつくんじゃないか?」
 いやらしそうに、部屋の隅にある胴体のゴーレムに目をやる。
「いかにも。お主が保管しとったか。」
「おいおい、そんなのん気な事を言ってていいのか? 『寄宿舎を騒がせていた怪異は、実はテオフラストの放置していたゴーレムだった』という悪評に繋がるぜ? うちのザイクロトルが上手く口止めをしてるがな。」
 グレイは同室のザイクロトルが何をしていたのか、ここでやっと気付いた。もっと早く気付いていればと、思わないでもない。
「……ふむ。交換条件は?」
「話が早いな。まあ、そこまで分かるなら、俺の言いたい事も分かるだろう。」
「学院長の椅子、か。」
 そんな感じで、学部長と副学部長の会談は続いていた。付き添いのセルフィとグレイには口を出す機会など無さそうな感じだ。
 数十分後、話はまとまりインタとテオフラストの間で選挙協力が結ばれる事が決まった。がっちりと握手する二人。……しかし、テオフラストの方は杖の手だったが。こめかみが痙攣するインタ。
「帰るぞ! セルフィ!」
「あ、はい。お師匠。」
 勢いよく部屋から出て行くインタと、おっとりと付いていくセルフィ。
 それを見送るテオフラストの顔には珍しく苦渋が見て取れた。





00:01:51 | hastur | comments(0) | TrackBacks