September 04, 2007

第7回リアクション E1 S−3


 S−3 怪獣大戦争

 グレイは師匠であるテオフラストの部屋に駆け込んだ。部屋の主はのほほんと自分の左手と杖の手で、あやとりに興じていた。
「何じゃ? 騒々しい。」
 グレイに気付き、声をかけるテオフラスト。
「先生、ヘビウサギが逃げてしまいました。この、毛皮だけを残して……。」
 これでは電気鼠を探し出す事さえ出来ない。ひいては、卒業試験に挑む事すら出来ないのであって、グレイにとっては死活問題だ。
 しかし、テオフラストはグレイの手にある抜け殻を見、落ち着いた声で述べた。
「ふむ。脱皮したんじゃろ。」
「脱皮?」
「ほれ。」
 そういうと、手近にあった籠から、人工生命を取り出す。それは、兎の形をしているが、全身を鱗で覆っている見たことも無い生き物だった。
「で、脱皮した後が、これ。『ウサギヘビ』。」
 また、しょうもないことを……。
 グレイは少しうなだれてから、師匠を問い詰めた。
「その、脱皮したウサギヘビが、なんでここにいるんです?」
「帰巣本能というもんじゃろ。」
 さらっとテオフラスト。
「ま、こいつでも電気鼠の探索は出来る。今度は逃がすでないぞ?」
 軽い頭痛を覚えたグレイであったが、ウサギヘビを有難く受け取った。これで卒業試験も続行できる。

 ゴムネズミを入れた籠を小脇に抱え、グレイは電気鼠の探索を開始した。首に縄をつけたウサギヘビに引きずられるように進む。そのウサギヘビは「しゃぁ……しゃぁ……」と不気味な声を上げながら、電気鼠の居場所を探し出していく。
 そして、ついに対決の時が来た。
 電気鼠は中庭の隅の、草むらの中に隠れていた。黄色い体毛が僅かに見える。そしてこちらに気付いたらしく「ビガァァァ……」と威嚇を始める。
「頼みましたよ。」
 グレイは早速、籠を下ろし、ゴムネズミをスタンバイさせる。
 ゴムネズミは俊敏な動きで、電気鼠を追い込むように動き回りだした。電気鼠も負けてはいない。
「ビガァァァァッッ!!」
 電撃の先制攻撃をゴムネズミにお見舞いした。
 しかし、コーティングの施されているゴムネズミは、何事も無かったかのように電気鼠に接近していく。
「ビガァァ? ビガァァァァッッ!!」
 第二撃。今度はサイドステップでかわすゴムネズミ。
 電撃はゴムネズミの横をすりぬけ……。
「しゃぁぁぁ……!!」
 ウサギヘビに命中してしまった。もだえ苦しむウサギヘビは、哀れにも蒸発し消え去ってしまった。合掌。
「ゴムゴム……ゴムッ!」
 ようやくゴムネズミの攻撃。口から粘液を吐き出す。しかし、これは電気鼠がよけてしまった。やはり、鼠だけあって動きは素早い。粘液は中庭の美しい花々に付着し、おどろおどろしい彩色に染め上げた。美化委員のフォルティア・マイアがもしこれを見ると……怒り心頭だろう。
 長期戦となるかと思われたが、勝負はもう目に見えていた。ゴムネズミは電気鼠の移動範囲を粘液で囲い込み、そして遂に身体に命中させた。
「ビガァァァ……ビガァァァ……。」
 悶える電気鼠をグレイは落ち着いてカプセル状の籠に放り込んだ。
「電気鼠、ゲットだぜ!」
 それは禁句。
 ともあれ、多少の犠牲はあったものの、グレイは卒業試験を何とかこなして見せた。





02:21:26 | hastur | comments(0) | TrackBacks