September 20, 2005
四月の雪
Zにとって、ジェンダーと言う概念は無意味だった。
その日も探偵仲間であるCの所を訪れていた。度々顔を出しては彼一人では荷の重い仕事を請け負っているのだ。
Cの探偵事務所には見慣れない人物がいた。つい一時間ほど前に、ここのお手伝いとして採用が決定した、とCは教えてくれた。
小柄で顔つきは可愛らしく、明るい茶色の長い髪が美しい。Zのその人に対する第一印象はこうだった。
つい先日までゴミゴミとしていたオフィスは幾分片付いていた。お手伝いが早速働いている成果だ。流石に床の掃除までは手が回っていない様で、薄いホコリが覆っている。
この時点で、Zの中でその人は好きな人物の方にカテゴライズされていた。そこにジェンダーは全く関与していない。だから、後にその人が男性だということを聞かされても然して驚いたりはしなかった。
椅子の下の暗闇に手を伸ばしてみる。指先に積もったホコリをぼんやりと眺めていた。
しばしの談笑の後、Zは帰る支度をしていた。
通りに出ると、太陽の恩恵をなくした雨は何時からか雪へと変わっていた。
しかしながらその雪は、積もる程のエネルギーは持ち合わせておらず、地面に到達するとあっという間に融けていった。
四月の雪は儚い。
数え切れない儚さに街が包まれていく幻想を味わうと、今日の出会いも案外脆いものかも知れないと悲観的な考えがよぎる。
四月の雪は儚い。
しかし、この街に降る雪は積もろうが積もるまいが、春には消えてしまう。今日の雪はたまたま、降ったのが四月だっただけだ。
そう考えるとZも気が楽になった。
[more...]
08:39:20 |
hastur |
comments(0) |
TrackBacks