November 05, 2004
第1回リアクション E2 S−1
第1回リアクション E2 ハスター
ある選択に関する物語・B
選ぶべき物や事と、好きな物や事が一致するっていうのは、幸せなことだろうね。
一致しない時は……選択肢の中から一番好きな物を選ぶ。あたいならそうするね。
選んだ物や事を、好きになるっていうのも一つの手かな?
S−1 着想の価値
辺りは騒然としていた。クォリネの村人は荷物をまとめて逃げて行く者が大半だった。
月はまだ、陽光をふさぐ位置にいて、とても昼間とは思えない暗さだった。
あたいはこの非常事態の中、一つのギャンブルを思いついた。例の白い館ならうってつけの避難場所になるのでは?と思った。確かに館の扉を開ける方法までは分からなかったけど……。
もし上手くいって助かったのが自分だけだったらすっごく寝覚めが悪い、とも思っていた。だからあたいは周りの人達に声を掛けた。
白い館へ行ってみるけど一緒に来る人!
そうしてあたいは、納屋から自分の馬を引いて来た。どうやらルアも、あわてて馬を用意しているようだった。
あたいの呼びかけは耳に届いていたようだけど、村人は一人として館へは向かわなかった。入れるかどうかも分からない館に避難するよりも、ヌーの進行方向に対して真横に避けるように逃げる方がよりよいと考えたのだと思う。何より村人たちは例の白い館を無気味がっているようだった。
だけど横に避けるという方法も、安全とは言えなかった。ヌーの気紛れで進路を変える可能性もあったし、今から移動を始めてヌーの進路の範囲外に行けるかどうかも怪しかった。
とにかくあたいとルアは荷物を持って、館へと疾駆した。後ろで樹が次々と倒れる音がしていた。
ルアは手綱を操りながら、あたいに話しかけて来た。
ねぇ、ジェイルは館の扉を開ける方法を知ってるの?
まさか。あたいも知らないよ。ただ今が、本当の助けが必要な時だと思ってんだ。
もし開かなかったら……
その時はその時だ!
あたいにも確実な勝算というものはなかった。
……駄目だったら上に登ってみない? 僕も手伝うからさ。
ルアの提案に対して、あたいは特に返事はしなかった。あたいはその時、腰のお守りに手を掛けて祈っていた。そしておじいさんの穏やかな語り口を思い出していた。そういえば昨晩の青い鳥のおとぎ話も、おじいさんから聞いた話だったと思う。それでもやっぱり結末は思い出せなかった。
館に着くとあたいらはそれぞれの馬を逃がした。扉の大きさからいって、とても中には入れられそうもなかったからだ。
そしてあたいらは扉の前に立った。その数世紀も開いていない白い扉は、真新しかった。鈍重な印象を与える開き戸だった。
叩き金は付いていなかった。だから、という訳でもないが、あたいはノックもせずノブに手を掛けた。ルアはあたいの後ろでじっとして見ているようだった。
地鳴りと爆音はその間も休まず、あたいらの方へと向かっていた。あたいはその時、死に直面しているという事を痛感していた。ルアもそんな事を感じ取っていたと思う。あたいは周りの音に負けない位の声を上げ、手に力を加えた。
えーい! 開け!
次の瞬間、あたいは勢いよく後ろに倒れた。真後ろにいたルアがあたいの体を受けとめてくれた。でも勢いが付いていたせいもあって、一緒に地面に倒れ込んでしまった。
あたいが予想していたよりも、扉はずっと軽かった。重いと思い込んで持ち上げようとした箱が、実は空っぽだった……そんな時のように、あたいはバランスを崩してしまったようだった。
上半身だけ起こして前を見ると、そこには館の中身が見えた。
その時、背後でヌーの鳴き声がした。あたいはまだ機敏に動ける状態ではなかった。はっきり言って腰がたたなかった。
やばいっ、と思った瞬間、ルアがあたいを抱え込んで館の中へ飛び込んだ。普段の雰囲気からは想像できない力だった。火事場の何とやらというやつだったのかも知れない。
そしてルアは急いで扉を閉めた。
こうしてあたいとルアは館の住人になった。
00:42:25 |
hastur |
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