November 02, 2004
第1回リアクション E1 S−1
第1回リアクション E1 ハスター
ある選択に関する物語・A
人生は選択の連続だと誰かが言っていたような気がする。
その瞬間の僕の選択は正しかったのだろうか? 答えは月の上へ行った頃に分かるのかも知れない。
S−1 撞着の序章
辺りは騒然としていた。クォリネの村人は荷物をまとめて逃げて行く者が大半だった。
月はまだ、陽光をふさぐ位置にいて、とても昼間とは思えない暗さだった。
その時僕は一つの決心をしていた。
昨日行った白い館へ逃げ込んだらどうだろう? 僕はあんまり伝説とか信じない方だけど、その時は信じてみたい気持ちになっていた。
僕よりもこの土地に詳しいジェイルはどうするのかな? そう思い、僕はそばにいたジェイルの行動を見てみた。
ジェイルは大声を張り上げていた。
白い館へ行ってみるけど一緒に来る人!
彼女はそう言いながら、納屋から自分の馬を引いて来ていた。僕もそれに倣って、あわてて馬を用意した。
夜のような暗さで表情は良く分からなかったけど、声から焦りは感じられた。でもこういう時のジェイルの行動力は頼もしく感じた。
ジェイルの呼びかけは耳に届いていたようだけど、村人は一人として館へは向かわなかった。入れるかどうかも分からない館に避難するよりも、ヌーの進行方向に対して真横に避けるように逃げる方がよりよいと考えたのだと思う。何より村人たちは例の白い館を無気味がっているようだった。
だけど横に避けるという方法も、安全とは言えなかった。ヌーの気紛れで進路を変える可能性もあったし、今から移動を始めてヌーの進路の範囲外に行けるかどうかも怪しかった。
とにかく僕とジェイルは荷物を持って、館へと疾駆した。後ろで樹が次々と倒れる音がしていた。
僕は手綱を操りながら、ジェイルに話しかけた。
ねぇ、ジェイルは館の扉を開ける方法を知ってるの?
まさか。あたいも知らないよ。ただ今が、本当の助けが必要な時だと思ってんだ。
もし開かなかったら……
その時はその時だ!
ジェイルにも確実な勝算というものはなかったみたいだった。
……駄目だったら上に登ってみない? 僕も手伝うからさ。
僕の提案に対して返事は返ってこなかった。ジェイルは腰のお守りに手を掛けて沈思しているようだった。
この時僕は、ジェイルだけでもなんとかして助けたいと考えていた。昨夜のような素敵な星空を分けてくれた、大切な友達。そんな友達をなんとかして助けたいと考えていた。
館に近づくにつれ、僕は例の夢のおとぎ話を思い出していた。魔法使いのおばあさんとの対面を予感してした。
館に着くと僕らはそれぞれの馬を逃がした。扉の大きさからいって、とても中には入れられそうもなかったからだ。
そして僕らは扉の前に立った。その数世紀も開いていない白い扉は、真新しかった。鈍重な印象を与える開き戸だった。
叩き金は付いていなかった。だから、という訳でもないだろうが、ジェイルはノックもせずノブに手を掛けた。僕はその後ろ姿を祈るような気持ちで見守っていた。
地鳴りと爆音はその間も休まず、僕らの方へと向かっていた。僕はその時、死に直面しているという事を痛感していた。ジェイルもそんな事を感じ取っていたと思う。彼女は周りの音に負けない位の声を上げ、手に力を加えた。
えーい! 開け!
次の瞬間、ジェイルは勢いよく後ろに倒れた。真後ろにいた僕は彼女の体を受けとめ、一緒に地面に倒れ込んでしまった。
ようやく体を起こして前を見ると、そこには館の中身が見えた。どうやらジェイルが思っていた以上に扉が軽く開いたみたいだった。
背後にヌーの鳴き声を聞き、僕は倒れていたジェイルを抱え込んであわてて中へ飛び込んだ。そして扉を閉めた。
こうして僕らは館の住人になった。
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