August 02, 2005
第4回リアクション D2 S−1
人間の飛び方
風、大気の間を滑るように飛び
風、大気の間を滑るように進み
風、大気の間を滑るように舞う
その街の名はアイオリ
(インクアノク遺跡より発見された碑文)
S−1 馬肉はわさび園で採れるか?
ジャック・ウェインは夏休みだというのに図書館に籠もってひとつのリポートを纏め上げていた。タイトルは「アイオリに関する考察」。
先日雲の中で遭遇した得体の知れない物体を、伝説の空中都市アイオリと想定しての考察が述べられている。
彼の頭の中では既にアイオリの様子が描かれていた。数え切れぬ気球や飛行船、そして見たこともない空飛ぶ乗物が所狭しと並べられている港。住人はそれらに乗って、地上へと飛び立つのだ。 更には飛行船で空の散歩を楽しむエリシアルと自分も妄想していた……。
ジャックは眼鏡を押し上げ、リポートの仕上げにかかった。
人影が疎らな中、先程のリポートを携え、ジャックは学院の事務室に来ていた。先月検証学の教授から聞いた、アイオリを探している考古学者と会うためだった。
「え〜その教授なら、西方へ調査に行ってるよ。確かシスとか言ったかな……。」
事務員の答えはそんなそっけないものだった。
「あ、手紙くらいなら出せると思いますよ。学院との定期連絡用の便があったから。」
「そうですか。どうも、ありがとうございます。」
そう言った事情で、ジャックは手紙を添えて自分の考えと協力要請を伝えることにした。返事が返ってくるのは月末になるらしい。
次に彼は検証学の教授の部屋を訪ねた。
ジャックはアイオリの目撃証言が極端に少ないことに注目していた。これは先月と同じように、彼の街は常に雲に紛れているからではないかと考えていた。
そこで、教授に気象に詳しい人物を紹介してもらおうと、ここまで訪ねてきたのだ。
「そうじゃのぅ。単に天候予測となると農学の範疇じゃが、更に詳しい専門的な気象となると、天文学のほうになるかの。」
教授はそう言って、何やらリストを取り出した。
「天文学の……と。ふむ、彼女を訪ねてみるといいじゃろ。」
そこには中学校で天文学を教えている女性の先生の名が印されていた。
「まったく何回遅刻すれば気が済むのかしらっ!」
ジャックが中学校の職員室へ入ったとき、最初に聞こえた声がこれであった。中では教授に紹介された女性が、受け持ちの生徒の前期の出席状況を調べている最中だったらしい。
「あ、ごめんなさい。何か用かしら?」
目が点になってるジャックに気づいたらしく、彼女はようやく取り合った。
「どうも、初めまして。ここ大学生のジャック・ウェインです。」
それから今までの経緯を掻い摘んで話し、雲に関する情報を教えてほしいと頼んだ。
「そう、ちょっと眉唾ものだけど、面白そうね。私も協力させてね。とりあえず私の記憶ではそんなに怪しい雲の目撃例っていうのはないけど……まぁ、夏休みの間に調べておくわ。」
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