July 09, 2005
第4回リアクション D1 S−2
S−2 Gordian knot
その老魔法使い、イルキスは嗄れた声で言った。
「待っておったぞ。」
全てを予見していたかのように述べる。
簡素な小屋に一人で暮らしているらしい。小さな机に来訪者をつかせた。
老人の学者と比べると実年齢はもちろん、外見も彼のほうが老けていた。しかし不思議と脆弱さは感じさせない。
エミルは簡単に挨拶を済ませ、ミリシアがセイリアから預かった紹介状を差し出した。
「ふむ……。して何が聞きたい?」
今回の事件のいきさつを簡単に説明し、専門的な魔法陣に関する話は学者が受け持った。そうしてエミルは本題に入る。
「この魔法陣が四つ全て完成したとき、何が起こるのでしょうか?」
イルキスは少し眉を動かし、簡単に答えを返す。
「破滅じゃよ。」
しばし、沈黙が流れる。説明不足と感じたのか、老人は付け足すように言葉を続けた。
「その魔法陣は大昔、儂やヴァンデミが考えたものじゃ。人間との戦で追いつめられた我々の切り札じゃった。
「当時は他にもいろんな魔法兵器が開発されておった。この魔法陣もそうじゃし、白い館という研究所も建立された。じゃがそれらも昔の話じゃ。実際には使われる前に戦は終わっておった。
「魔法陣には力を呼び寄せる効果がある。その余波で国は滅ぶじゃろうて。」
淀みなく続けるその口調にはどこか浮き世離れした感覚があった。リアリティに欠けていた。
エミルは他にも質問を用意していたが、この話を聞いてそれが無意味になった気がした。そして別の疑問が沸いてきた。
「あなた様とヴァンデミ氏はどのような関係なのですか?」
「昔の戦友と言ったところかの。200年来の付き合いじゃ。」
俄には信じられなかった。外見からいってこの老人とヴァンデミが同世代とは……。
「それでヴァンデミ氏も魔法が使えるのですか?」
「ああ使えるとも。その魔法陣は儂とヴァンデミしか組むことは出来ん。」
エミルは案内人の少年の方を向く。彼もそんなことは初耳らしく、首を振って答える。
「じゃがな、一つ言っておこう。奴は魔法を使えるが、魔法使いではない。魔法使いというのは全ての自然に対し完璧な知識を有し、対話出来る者のことじゃ。奴は自然を利用しているに過ぎん。」
そう言うと懐から一本の紐を取り出し、エミルの方へ放った。それは真中で複雑に固く結ばれていた。
「今日はもう遅い。その辺で寝ると良い。それと一つ謎かけじゃ。その紐を明日の朝までに分離させてみよ。」
その晩、エミル達は紐を中心にしてあれこれと考え込んでいた。紐は思いのほか複雑に結ばれており、簡単には解くことが出来なかった。数刻も経たないうちに諦観が漂い、結局そのまま寝入ってしまった。
そのまま夜が明け、前夜と変わらぬ姿の紐を老人に見せる羽目となった。イルキスはそれを確認すると滔々と語り始める。
「やはり分離することは出来なんだか。実はな、以前同じ謎かけをヴァンデミに吹っかけたことがある。奴はあっという間にこの紐を二つに分けた。剣で両断してな。
「そういう奴なのじゃよ。もちろんじっくり時間をかければそのうち紐は解くことが出来るじゃろう。……まぁ、どちらかの方法が正解という訳でもないがな。」
08:37:25 |
hastur |
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