February 09, 2005
第3回リアクション E1 S−3
S−3 再開の上昇
食事が終わると、僕はクラヤミとジェイルと一緒に館の中を歩き回り始めた。
あたいら人間が入ることが出来たということは、ここはエルフの避難所として以外の意味があるのかもしれない。ジェイルはそう説明した。
まず、柱時計の前に来た。クラヤミは特に興味を示さず……というか、早くここから離れたがっているようにホールの中央へ動いた。僕はそのことを頭に留めた。
その他の一階の部屋では、何も反応を得られなかった。
二階の各部屋でも同じだった。ただぐるぐると部屋を回って見ているだけという感じだった。
……上、行ってみよーぜ。
ジェイルは三階に行くことを僕に提案した。僕もこのままでは埒があかないと感じていたので、うん、行こう、と返事を返した。
クラヤミは特に何も返事をしなかった。よく考えれば、クラヤミだけで三階以上に行くことは不可能なのだ。何か魔法か何かがあれば別だけど……。
ジェイルは螺旋階段の終点、二階の天井の戸を押し上げた。ぎぃ、と音を立てて戸は開き、最初に視界に入ったのは本だった。
少し階段を上がり、三階を見回すとどこを見ても本があった。そこは図書室のようだった。本棚と本が所狭しと並んでいた。
本の鑑定は僕が受け持った。僕は図書館学もかじっているからだ。
ジェイルもそこらへんの本を手当たり次第手にとって読んでいるようだった。
暫く調べると面白いことがいろいろ分かった。僕はジェイルにそれらを教えた。
これ、一番新しい本で250年以上も前のものだよ。古い本はエルフの言葉で書かれているものが多くて何が書いてあるのか分からない。……それと、面白いものを見つけたよ。
そう言って木の装丁の本を一冊取り出した。開いたページには人型の何かの絵が描かれていた。
それはドワーフをもっと背を高くして醜くしたものに見えた。獣人から高貴さをとったものにも見えた。
そしてその絵に添えられている説明に、人間、と書かれていた。
これが人間?
ここにある人間についての記述は、全部こんな感じだったよ。
僕はそう付け加えた。
もし<誰でもない>さんがこれらの本でしか人間を知らないとしたら、僕らを人間とは思わないだろう。
それと、この館に関する記録も少しあった。館の中へ送られたエルフは二人の男女で、一匹の猫も一緒だった、と書かれていた。
図書室の深奥には、さらに上へ上がるための梯子があった。
僕はジェイルと相談し、四階へ上がってみることにした。
梯子を登り、天井の戸を押し開けると、その先は暗かった。今までの階はどこでも燭台が壁にあって、明かりが保たれていたけど、この上にはそういったものが無いようだった。
僕らは目が慣れるまでそこでじっとしていた。
僕は右肘に感触を覚えた。ジェイルが僕の肘を掴んだからだ。少し、この暗闇に恐がっているみたいだった。
暫くすると僕は気づいた。あっ、と声を上げた。
ほら、天井、見てよ。
ジェイルは言われるまま上へ視線を移した。
そこにはいくつもの輝点がちりばめられていた。それが星を表しているということはすぐに分かった。
星の配置は実際のものとは少し食い違っていたけど、かなり細かいところまで作り込まれていた。僕の星座も見つけることができた。
それは例え疑似とはいえ、三カ月振りの星空だった。僕らは少しの間、そのなつかしい風景に浸っていた。
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