September 14, 2007

第8回リアクション E3 S−2


勝手にしやがれ (A Bout de Souffle)



 怪物と戦う者。それはその過程で自分自身が怪物にならぬよう、強固な意志を持たねばならない。
 何故なら、深淵を覗く時には、深淵もまたこちらを覗いているからである。


 S−2 捜索者

 コリューンはその後で、《怪異学派》の弟子たちと接触を持つことにした。一連の怪異に関する騒動について、自分なりに真実を掴みたいという欲求からだったのかも知れない。すべての授業が終了した放課後、コリューンはザイクロトル・オークラノスと食堂で落ち合うことができた。
「やあ、今日は何用だ?」
 きさくにはなしかけてくるザイクロトル。コリューンは、彼の知っている、怪異に関連した情報をどう引き出そうかと思案していた。
「寄宿舎を荒らしまわっていた……という怪異が、その後どうなったか知りたいんですけど。」
「あれは……パラケルスス先生の……っていう話をしただろ。」
 急に声をひそめるザイクロトル。
「いえ、それ以外でも、各地で問題になっている怪異の騒動について、その……関連性というか。」
「どの?」
「魔術学院を破壊してまわっていた、とか……。」
「ああ、あの事件か。そういやあれ以来、ここしばらく話を耳にしないな。どこかに逃げて行ったのかも知れないぜ。」
「そうなんですか?」
「解らないがな。でも今、この現状では何も問題は起こっていないじゃないか。」
「確かにそうですね……。」
 コリューンは軽く溜め息をついた。
「まぁ、俺が知ってることで、聞きたいことがあったらいつでも言ってくれ。」
 ザイクロトルはそう言って、食事にありついた。

 別の日。コリューンはラウダンクルクス・ケレス教諭とその授業の参加者が行方不明になった事件について考えていた。これも、怪異となんらかの関係があるのではないかと推測を立てたのであろう。
 しかし、どこから、あるいは誰からその関連情報を集めるのかと言う事までは考えていなかったようだ。情報が得られなければ、さしたる進展も無い。コリューンは途方に暮れていた。
 そんな時、ペンタルームから出てくる《アルカディアにもいるもの》学部長、イフオブ・サンクッパーの姿を見かけた。彼は「ショウめ、何をやっておるのだか……」と一人こぼしながら歩いている。
 行方不明になった学生の中に「ショウ」という名前があったこと、ショウはイフオブの弟子だった事を思い出したコリューンは、イフオブを呼び止めた。
「あの、ショウさんのこと、ご存知なんですか?」
 コリアエでも一二を争うほどの巨漢、イフオブを見上げながら尋ねるコリューン。
「ん? ああ、さっきその部屋で話して来たところだ。」
 イフオブはそう言ってペンタルームの扉を指差す。
「え? ここにいたんですか? 行方不明じゃなくて?」
 思わず聞き返す。
「百聞は一見にしかずだな。行ってみるといい。」
 それだけ告げて、イフオブは忙しそうに立ち去っていった。
 コリューンは言われるまま、ペンタルームへと踏み入れた。普段ペンタをやらないコリューンにとっては縁の薄い場所で、中の様子は余り詳しくない。
 入ってみると、そこにはいくつかテーブルが並んでおり、そこにはペンタのカードが広げられていた。当然、対戦に夢中になっている者が幾人かいる。壁には本棚や大きな姿見があり、鏡の前には漆黒のローブを纏った男が立っていた。男は鏡の中をじっと覗いている。
 よく見ると、鏡には男の姿は映っておらず、代わりに草原にカードを広げてペンタに興じている二人の人間が見えた。
 暫くすると、鏡の向こうでは試合が終わったらしく、片づけを始めようとしていた。その二人はコリューンには少し見覚えがあった。
 《アルカディアにもいるもの》のショウ・服部とフォルティア・マイアだ。思わずコリューンは鏡の中に向かって声をかけた。
「あの、ラウダンクルクス先生の授業の方たちですよね? 何が起こったのか教えてくれませんか?」
 それに答えたのはフォルティアだった。
「いいですわよ。その代わり、こちらからもお願いがあるの……。」
「ええと……内容にもよりますけど。」
「まあ、いいですわ。まず、こちら側の事を教えてあげましょう。」
 そう言うと、フォルティアはこれまで起こった事を掻い摘んで説明してくれた。
 ラウダンクルクスの授業で、コリア島の森の奥で『虹』の精霊と綱引きをしたこと。
 綱引きに勝つと、精霊界の扉が出現した事。
 先週、その扉をくぐって精霊界に来た事。
 扉が消えてしまった事。
 精霊界の『湖』とペンタルームの鏡が繋がっていて、映像と音声はやり取りできるようになった事。
 人間が精霊界に入り込んだことでバランスが崩れ、人間界に『怪物』が出て行こうとしている事。
 エトセトラ、エトセトラ……。
「……という訳です。まだ、そちらに帰る手段も見つかっていません。」
 結構緊迫した状況だと思われるのに、フォルティアは穏やかに言葉を続けていた。ショウは話が長くなると感じたのか、既に立ち去ったようだ。
「そうだったんですか……じゃ、怪異とはあまり関係が無いのかな?」
「怪異? さぁ、それは分かりませんが。それより、こちらのお願い、聞いてもらってもいいですか?」
「あ、はい。」
「先々週くらいに、中庭の花壇が何者かに荒らされた、と言うのはご存知?」
 そう言えば、そんな話もあったような気がしたが、あまり関心が無かったのでコリューンは詳細までは知らなかった。
「それで、その犯人を捜して懲らしめて欲しいの。美化委員長としては、とても許しがたい……。」
 今までの雰囲気とは一変して、フォルティアの肩がわなわなと震えている。
「お願い、出来るかしら?」
 口調が強い。強要のようにも聞こえた。
 “賢者”探し、消えた怪異、精霊界に花壇荒らし……コリューンは体が足りないと感じ始めていた。





Posted by hastur at 12:20 P | from category: リアクション | TrackBacks
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