August 18, 2006
第9回リアクション E3 S−2
S−2 廃滅の向こう
それからクォリネは大きく様変わりをした。完全に気候が変わってしまったのだ。
少し前までは考えられなかったことだが、村の上空に雲がかかるようになり、鳥も飛ぶようになった。そして雨や雪も降るようになった。
眩しすぎた太陽も、今では適当な明るさのようだ。そしてあれほどまでに近くに、綺麗に見えていた星も少し遠くかすんでしまった。
暫くすると、草木も生えなかったクォリネに雑草が生え始めた。
何が原因か、はっきりとは分からないが館が関係していたようだった。
珍獣の森は壊滅し、白い館もなくなり、星も良くは見えなくなった。この事実を受け入れ、クォリネ観光協会は解体された。
その代わり、村長さんは農業を始めてみようと提案した。
実は珍獣の森にはモリノカクザトウバサミという珍しい植物がある。この植物の実は多くの栄養を含んでおり、村では昔から非常食として食べられていた。しかし栽培する土地がなかったため、今までは森から少しだけ採取するのみだった。
村長さん達はまず荒れた珍獣の森からモリノカクザトウバサミの種を集め、村の隣に設けた畑にそれを植えつけた。
わたしも畑を耕したり、畑に水をやったり、いろいろ手伝いをした。
数年が経ち、村は安定し始めていた。
栽培は大成功を納め、アセイラム各地に出荷するようになっていた。
その頃になるとわたしは、その買い手となる村や街との交渉役として働いていた。各地でわたしは歌を歌い、モリノカクザトウバサミの宣伝をしながら、販売契約も取っていた。
クォリネのこの植物はかなり名が知れ始め、畑を襲う輩も増えてきていた。専門の戦士のいないクォリネにとってこれは頭の痛い話だった。
しかしあの青年が村を救うためにやってきてくれた。それはセリアだった。彼は学院で剣術を納め、卒業と共にクォリネに来てくれていた。
セリアはクォリネの自警団を設立し、その団長に収まった。彼は村の若者に戦い方を教え、畑をしっかりと守ってくれた。
もう一つ、いい話があった。今までは自由自治村だったクォリネだが、ある貴族の領地となることになったのだ。普通はそう言う話になると、今までの自分たちの財産が搾取されるのではないか、と不安になるものだが、その貴族は違った。
貴族の名はノースウィンド家……そう、ジェイルやウォレン達の家だった。ノースウィンド家は下級貴族の代名詞とも言われるほどの小さな家だったが、ウォレンの手腕によってかなり大きくなったらしい。クォリネに対しても惜しみない援助をしてくれている。
もうすぐわたしは父に会えるかも知れない、と感じていた。なぜなら、この村にはまだ、パン屋がなかったからだ。
わたしはその時丁度、リュミエールに来ていた。モリノカクザトウバサミとリュミエールの調度品を交換するためだった。
リュミエールはあのあと独立を取り下げ、フラニスとの戦争は回避されていた。街はエルフ以外の人たちも多く見受けられ、活気づいていた。
そんな中、わたしは一人のエルフが眼に止まった。それは真っ白な髪をしており、アコーディオンを背負っていた。見間違えようもなく、それはリンプさんだった。
お久しぶりですね。
私が声を掛けると、彼女は少し驚いた仕種を見せたが、すぐに返事を返した。
ええ、お久しぶりです。今ルア達と旅から帰ってきたところなんです。ルアは多分今頃、クォリネで研究所を建てているはずですよ。
あ、そうですか……では、クォリネに戻って手伝ってあげますか。リンプさんはどうされます?
ご一緒します。リュミエールはもう十分見たところです。
そう答える彼女は、以前より凛々しく見えた。
ルアは館の跡地に研究所を建て始めたようだった。セリアや村の人たちも手伝っている。
村長さんの話だと、ジェイルもたった今来たところらしい。更に、今のノースウィンド家の当主は旅から帰った彼女だと聞かされた。つまりクォリネの領主はジェイルなのだ。
建物も形になってきた頃、わたし達はルアのところを訪ねた。
中には精悍な感じの青年と、綽然とした感じの女性がいた。素直にわたしはお似合いだと思った。
リンプさんが口を開く。
私にも何か手伝わせてください。
もちろん。こちらからお願いしたいくらいだよ。
彼女は故郷に戻ってきた。ルアがここに研究所を建てた理由は、そこにあったのかも知れない。
じゃ、研究所開設のお祝いに一曲披露しますか。わたしも普段はクォリネに居ますから、何かあったら手伝いますよ。
そう言ってわたしは歌い始めた。
星の暖かい光は
壮美と愉快を教えてくれる
星の冷たい光は
苦痛と困難を教えてくれる
でもいつまでも
教わり続ける訳にはいかない
全てが運命通りでも
自分の運命くらい自分で操る
星の軌跡に教わった
最後のこと…
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