February 25, 2006
第6回リアクション E2 S−2
S−2 優しさの底辺あたい達は<誰でもない>を元気づけに行った。これはあたいもルアも気に掛けていたことだった。
あたい達がホールまで降りると例の音楽が聞こえた。今日は気分転換にアコーディオンを弾いているようだった。もちろんいつものようにパイプをくわえたまま演奏しているのだろう。あたいはそこまで想像して、柱時計の裏の階段を降りていった。
地下の部屋は紫煙で満ちていた。<誰でもない>はあたい達に気づくと音楽を徐々に緩めていって、そして音を止めた。
こんにちは。今日は?
うん、特に用事はないけど……お話でもしようと思って。
じゃ、お茶でも入れましょうか。あぁ、お酒のほうがいいですか?
ううん、お茶で。
あたいはちょっと我慢した。
ねぇ、僕、<誰でもない>さんの名前、考えてきたんだけど。「リンプ・オルフォ」って言うの、どうかな。
いい名前ですね。なんていう意味ですか?
「きれいな目」っていう意味なんだ。外の色々なキレイなものを見てほしいから……どう、使ってくれる?
では、使わせてもらいます。今までは名前を使う相手もいなかったですから。
その台詞を聞いて、名前は相手がいないと意味をなさないことに気づいた。名前本来の機能、その本質を知る機会なんか、こんなところでなくては一生ないだろう。
だからさ、がんばって一緒に外に行こうよ。外の陽光を感じるのって、すっごく気持ち良いんだから、ね。
……そのためにはあの魔法を完成させなくては。
そう言ってリンプはパイプを深く吸った。
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