November 12, 2005

第5回リアクション E2 S−1


 ある愛に関する物語・B


 少し寝苦しいときには楽しかったときのことを思い浮かべればいい。楽しい時間はあっという間に過ぎていってしまうから気づいたときには夢の中になっているだろう。
 だから別に羊を用意しなくてもいい。あれはあれでやかましいものだから。
 もう少しすれば夢の続きを通り抜けられる。後は自分の力で……。


 S−1 旅団の帰還

 わたしたちは大八車と共にクォリネの村まで帰ってきた。車の中身は大量の干物であった。
 長旅のせいで疲れきってはいたが、とりあえず村が見えたのでほっとする。わたしは一仕事終えた達成感にやっと浸れるようになった。
 道中は虎の子の村の財産をはたいて護衛を雇っていたため、なんとか無事であった。もしこの干物を奪われるようなことでもあれば、クォリネはどうなっていたか、とても想像できない。それほど重要な輸送だった。
 日はまだ高く、村に近づくにつれ空は開け、日差しが強くなっていた。わたしは愛用の麦藁帽子を傾けて被り、日光から目を守った。
 村の様子はといえば、私たちが出発する前とは見違えていた。多少継ぎ接ぎだらけな所はあるが、建物は揃っていたし、人の数も前とは比べものにならないくらい増えていた。
 みんなよくやってくれたな。
 わたしの横で村長さんが呟く。
 ほら、もう少しですよ。
 わたしは努めて明るくみんなにそう声を掛けた。
 おかえりなさい。
 そう出迎えてくれたのはセリアだった。わたしたちの留守中を守ってくれていたのは彼だった。
 他の村と同様にクォリネにも自警団というものはある。とは言えほとんどのものが兼任で、しかも戦闘について訓練を受けたものは皆無だった。その点考えるとセリアが残って村を守ってくれていたのは大きかった。
 セリアは荷物を運び入れるのを手伝うと、留守中の出来事を教えてくれた。とはいっても、報告することはほとんどないようだった。
 あれから白い館の方も特に変化はなく、村にも特に事件らしい事件というのはなかったそうだ。あったことといえば、またリュミエールのほうで小さな地震があったことくらいだった。
 それを聞いてわたしは一方でほっとし、また一方では少し残念がった。
 それからもう一つ、わたしはセリアに質問した。
 ウォレンはまだ戻ってきてませんか?
 ええ、まだですね。
 ウォレンはメイシャに向かうわたしたちと一緒に旅し、王都で別れたのだった。いまだクォリネに戻ってきていないとは……何かあったのだろうか?
 わたしはそんな疑問を頭に巡らせながら、村長さんの小屋へ入った。
 奥さんや娘さんを含め、疲れきっていたわたしたちはひとまず小屋で休むことにした。さすがにこの長旅は女性や子供にはきつかったようで、二人とも最後のほうは大八車の上で休んでいることが多かった。しかし奥さんの気遣いや娘さんの無邪気さがわたしたちの疲れをいくらか癒していたのも事実だった。





Posted by hastur at 10:36 P | from category: リアクション | TrackBacks
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