August 29, 2006

DOORリアクション 目次




















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August 18, 2006

第9回リアクション E3 S−2


 S−2 廃滅の向こう

 それからクォリネは大きく様変わりをした。完全に気候が変わってしまったのだ。
 少し前までは考えられなかったことだが、村の上空に雲がかかるようになり、鳥も飛ぶようになった。そして雨や雪も降るようになった。
 眩しすぎた太陽も、今では適当な明るさのようだ。そしてあれほどまでに近くに、綺麗に見えていた星も少し遠くかすんでしまった。
 暫くすると、草木も生えなかったクォリネに雑草が生え始めた。
 何が原因か、はっきりとは分からないが館が関係していたようだった。
 珍獣の森は壊滅し、白い館もなくなり、星も良くは見えなくなった。この事実を受け入れ、クォリネ観光協会は解体された。
 その代わり、村長さんは農業を始めてみようと提案した。
 実は珍獣の森にはモリノカクザトウバサミという珍しい植物がある。この植物の実は多くの栄養を含んでおり、村では昔から非常食として食べられていた。しかし栽培する土地がなかったため、今までは森から少しだけ採取するのみだった。
 村長さん達はまず荒れた珍獣の森からモリノカクザトウバサミの種を集め、村の隣に設けた畑にそれを植えつけた。
 わたしも畑を耕したり、畑に水をやったり、いろいろ手伝いをした。

 数年が経ち、村は安定し始めていた。
 栽培は大成功を納め、アセイラム各地に出荷するようになっていた。
 その頃になるとわたしは、その買い手となる村や街との交渉役として働いていた。各地でわたしは歌を歌い、モリノカクザトウバサミの宣伝をしながら、販売契約も取っていた。
 クォリネのこの植物はかなり名が知れ始め、畑を襲う輩も増えてきていた。専門の戦士のいないクォリネにとってこれは頭の痛い話だった。
 しかしあの青年が村を救うためにやってきてくれた。それはセリアだった。彼は学院で剣術を納め、卒業と共にクォリネに来てくれていた。
 セリアはクォリネの自警団を設立し、その団長に収まった。彼は村の若者に戦い方を教え、畑をしっかりと守ってくれた。
 もう一つ、いい話があった。今までは自由自治村だったクォリネだが、ある貴族の領地となることになったのだ。普通はそう言う話になると、今までの自分たちの財産が搾取されるのではないか、と不安になるものだが、その貴族は違った。
 貴族の名はノースウィンド家……そう、ジェイルやウォレン達の家だった。ノースウィンド家は下級貴族の代名詞とも言われるほどの小さな家だったが、ウォレンの手腕によってかなり大きくなったらしい。クォリネに対しても惜しみない援助をしてくれている。
 もうすぐわたしは父に会えるかも知れない、と感じていた。なぜなら、この村にはまだ、パン屋がなかったからだ。

 わたしはその時丁度、リュミエールに来ていた。モリノカクザトウバサミとリュミエールの調度品を交換するためだった。
 リュミエールはあのあと独立を取り下げ、フラニスとの戦争は回避されていた。街はエルフ以外の人たちも多く見受けられ、活気づいていた。
 そんな中、わたしは一人のエルフが眼に止まった。それは真っ白な髪をしており、アコーディオンを背負っていた。見間違えようもなく、それはリンプさんだった。
 お久しぶりですね。
 私が声を掛けると、彼女は少し驚いた仕種を見せたが、すぐに返事を返した。
 ええ、お久しぶりです。今ルア達と旅から帰ってきたところなんです。ルアは多分今頃、クォリネで研究所を建てているはずですよ。
 あ、そうですか……では、クォリネに戻って手伝ってあげますか。リンプさんはどうされます?
 ご一緒します。リュミエールはもう十分見たところです。
 そう答える彼女は、以前より凛々しく見えた。

 ルアは館の跡地に研究所を建て始めたようだった。セリアや村の人たちも手伝っている。
 村長さんの話だと、ジェイルもたった今来たところらしい。更に、今のノースウィンド家の当主は旅から帰った彼女だと聞かされた。つまりクォリネの領主はジェイルなのだ。
 建物も形になってきた頃、わたし達はルアのところを訪ねた。
 中には精悍な感じの青年と、綽然とした感じの女性がいた。素直にわたしはお似合いだと思った。
 リンプさんが口を開く。
 私にも何か手伝わせてください。
 もちろん。こちらからお願いしたいくらいだよ。
 彼女は故郷に戻ってきた。ルアがここに研究所を建てた理由は、そこにあったのかも知れない。
 じゃ、研究所開設のお祝いに一曲披露しますか。わたしも普段はクォリネに居ますから、何かあったら手伝いますよ。
 そう言ってわたしは歌い始めた。


 星の暖かい光は
 壮美と愉快を教えてくれる
 星の冷たい光は
 苦痛と困難を教えてくれる

  でもいつまでも
  教わり続ける訳にはいかない

 全てが運命通りでも
 自分の運命くらい自分で操る
 星の軌跡に教わった
 最後のこと…







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August 07, 2006

第9回リアクション E3 S−1


 ある希望に関する物語・C


 いい人にあえるといいね
 いいところにいけるといいね
 いいものにふれられるといいね
 いいことができたらいいね
 いいまいにちだといいね
 いい人を好きでいたいね
 いい人に好きと言われたいね
 いい人にあえるといいね
 いいひとたちと生きれたらいいね
 ほんとに
 そう思うよ


 S−1 外のふくらみ

 その晩、ルア達は村長さんの計らいで、宿屋に泊まることになった。
 リンプさんは……クォリネさんと呼ぶべきなのかも知れないが……彼女はわたしと一緒に村長さんの家に泊めてもらうことになった。

 わたし達は館を出たその日、村の人たちの質問責めにあっていた。今まで誰も入ったことのなかったあの館の事に、村人たちは興味津々のようだった。
 代わりに村人たちは、外の事件のことを教えてくれた。
 色んなことを聞いたが、一番驚いたのはリュミエールとオクターブの話だった。
 リュミエールが独立したと言うのだ。しかも王都ではこれを受けて、王都にいるエルフを投獄しているという。さすがに王都の影響の少ない、ここではそんなことは行なわれていないが……。
 リュミエールが独立。フラニスと再び戦争が起きる……かも。リンプさんはどうするのでしょう?
 だが、彼女はどこ吹く風という感じだった。
 私はリュミエールで生まれたわけでも、育ったわけでもない。エルフとして生まれてきたけど、魔法を放棄した時点でエルフ族とは何の関係もないつもりです。
 雪の積もりつつある風景の中で、彼女はさらりと言って退けた。

 一方、オクターブの方の話は無茶苦茶だった。オクターブの街が空に浮かんだと言うのだ。
 こんな僻地ではその噂の裏を取る術がないのでなんとも言えないが、他にも自治や西部の国土の管轄を認めさせたとか、とにかく途方もない話が次から次へと出てきた。
 わたし達はそんな信じられないような話を、ただ首を縦に振って聞き入ることしか出来なかった。
 その中でも、歌のネタに……ということで、わたしは熱心にそれらの話を聞き入っていた。
 そして村の中央の広場は、噂話のるつぼになっていた。わたしはこの情報の隔たりに戸惑いと不可思議を感じずにはいられなかった。
 雪はまだ、止む気配はない。

 暫くすると、わたしの隣にいたリンプさんが私に耳打ちをしてその場を離れた。
 ちょっと忘れ物を取ってきます。
 そう言って彼女は森の方、館の在った方へ向かった。
 ジェイルがお腹空いたな…、と漏らした頃、やっと広場の人々はそれぞれの家へと帰り始めた。ジェイル達はわたし達にじゃ、また明日、と声をかけて、村長さんの用意してくれた宿屋へと入っていった。わたし達も村長さんの家へ入った。
 わたしとリンプさんが中に入ると、そこにはないはずのものが在った。それはアコーディオンだった。かなり痛んでおり、白い鍵盤が二三個欠けていたが、ちゃんと音は出るようだった。
 さっき取りに行ったのはこれのことだったみたいだ。
 これから私は全く別の世界を歩く……でも、今までを切り離すことは出来ない。それを繋ぎ止めるために、私はこれを奏でるんです。
 リンプさんは優しい笑顔でそう説明した。その笑顔は今まで見たことのない、明るい笑顔だった。
 食事が出来てますよ。
 奥の方から奥さんの声がする。わたしたちは村長さん達の待っている食卓へ向かい、夕食をご馳走になった。
 どうするんだ? これから。
 おじさん、まだまだ歌を聞かせてくれるよねっ
 村長さんに訪ねられ、娘さんにせがまれる。
 わたしはまだこの村の事を歌ってません。……村が全快するまで、暫くやっかいになりますよ。
 それがわたしの本音だった。
 その間に、ナー君と仲良くなれるといいね。
 娘さんは嬉しそうにそう言ってくれた。

 ふと、目が覚めた。
 窓の外は暗かったけど、雪はもう止んでいるみたいだった。少し目線を上に上げると、星がちらちらと見えた。そして宿屋の屋根の上に誰かがいるのが分かった。
 付き合いましょうか?
 後ろから声を掛けられる。リンプさんだった。彼女も目が冴えてしまったらしい。
 えぇ、行きましょう。
 わたしたちはそれぞれの楽器を手にし外に出た。
 わたしたちは宿屋の下まで来ると、楽器を鳴らし始めた。特に打ち合わせたわけでもないが、私がリュートでコードを、リンプさんがアコーディオンでメロディを弾いた。リンプさんはわたしのコードから上手にメロディを拾ってくれる。
 何回かリフレインして、形が整ってきた。その緩やかな曲は広い外の世界にマッチしていた。わたしはその曲に乗せて、朗々と歌い始めた。


 運命について考える
 それは抗えないもの だけど変えられるもの
 月と運命の関係は

 選択について考える
 それは迷うもの だけど必要なもの
 館と選択の関係は

 責任について考える
 それは重いもの だけど譲れないもの
 鳥籠と責任の関係は

 親子について考える
 それは難しいもの だけど暖かいもの
 獣と親子の関係は

 殺人について考える
 それは許せないもの だけど贖えるもの
 音楽と殺人の関係は

 愛について考える
 それは欲しがるもの だけど与えたいもの
 星と愛の関係は

 告白について考える
 それは凛々しいもの だけど躊躇うもの
 童話と告白の関係は

 過去について考える
 それは拭いたいもの だけど覚えているもの
 時計と過去の関係は

 孤独について考える
 それは生み出されるもの だけど消え去るもの
 煙草と孤独の関係は

 希望について考える
 それは儚いもの だけど輝くもの
 ケーキと希望の関係は

 十のことを考える 十の答えを持ち続ける
 十の路があるけれど 十の最後は希望だよ


 歌が終わるとわたし達は梯子を登って屋根の上に上がった。
 本物の星はいいですね。
 リンプさんはそんなことを口にしてルア達の横に腰を下ろした。
 なぁ、あたい達はこれから旅に出るんだけど、リンプも一緒に来ないか?
 そうしようよ。僕は色んなものをリンプさんに見てほしいんだ。きっとリンプさんの、自分のやりたいことが見えるはずだよ。
 ジェイル達の誘いに彼女は、
 ではご一緒させていただきます。ルアフォート……ジェイリーア……よろしくお願いします。
 はにかんでそう答えた。
 ラグさんも一緒だと心強いんだけど。
 ん、誘ってくれてありがと。でもわたしはここに残ります。わたしはここで得たものが余りにも多い。それを還元するまではクォリネに居ますよ。
 わたしは弦を一つ弾いてそう言った。

 夜が明けるとリンプさん達は旅に出る。
 ジェイルは視野を広げるために。
 ルアは全ての星を見るために。
 そしてリンプさんは外を満喫するために。





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