August 04, 2005

第4回リアクション D2 S−3


 S−3 わさびが出来ちゃったみたい……

 考古学者からの返事が返ってきた。内容は次のなうなものだった。
「貴重な目撃例、ありがとう。加えて、なかなかの推測だ。恐れ入ったよ。
 実は気球やアイオリに関する遺跡というのは数が少ない。中にはアイオリは古人が面白がって書いた空想小説ではないか、などという学者もいる。当然私はその存在を信じているが……。
 アイオリ巡回コースについてだが、ひとつ指摘する。気球を地上との往復に使用したと仮定すると、ベルトリス川上流にはアイオリは行かなかっただろう。そこはオクターブに近いからね。
 その昔、オクターブでは巨大な鳥を使って世界中と交易をしていたと伝えられている。気球というのは鳥に弱いから、オクターブ周辺ではきっと使えないだろう。ちなみに遺跡とオクターブの藤港との時代比較は既に終わっている。かなり近い時代のはずだ。
 私も君と一緒に調査に加わりたいが、こちらも今手が話せない。しかし私の研究成果は娘にも伝えている。良かったら娘とアイオリ捜しを進めてみてはどうだろう。
 娘は今学院で考古学を専攻している。」
 その後に娘の名前が書かれており、その娘の情報が書かれているようだったが、そこから下はちぎれていた。どうやら郵便配達人が雨で濡らしたかしたのだろう。




指針NO.

D06:探す。
D99:その他のことをする。





08:16:33 | hastur | comments(0) | TrackBacks

August 03, 2005

第4回リアクション D2 S−2


 S−2 本日のわさび率は20.2パーセント

 それからの数日は考古学者からの返事を待つ毎日だった。
 暑い……。
 真夏のかんかん照りの中、外にいると体が溶けるような感覚を抱く。
 かといって風通しの悪い研究室に居続けることはもはや死を意味する。そこは既に人の滞在を許すような場所ではなかった。熱気を持った鉄器にうっかり触るようなことでもあれば、たちまち肌に無数のミミズ腫れを作ることとなろう。そのような鉄製のパーツが所狭しと並べられているのだ。誰が好き好んで親から貰った大事な体に訳の分からぬ烙印を押すような行動に出よう。
 更にはその熱気で誤動作を起こす発明品達が、部屋中を飛び回っていた。「自動アイロン機」が所構わず焼き続け、「自動散髪機」が所構わず切り裂いていた。殺したい人間がいるとしよう。その人物をこの部屋に放り込めば5秒と経たずその願望は叶えられるだろう。
 ジャックの研究室は斯様に学院一危険な地域となっていた。
 仕方ないのでジャックは木陰で涼んでいた。例年の夏の風物詩ということもあって、もう慣れたものだった。
 ただ今年が例年と違うのは、「この部屋立入禁止」の張紙を、張り忘れたことくらいだろう。





08:34:13 | hastur | comments(0) | TrackBacks

August 02, 2005

第4回リアクション D2 S−1


 人間の飛び方


 風、大気の間を滑るように飛び
 風、大気の間を滑るように進み
 風、大気の間を滑るように舞う
 その街の名はアイオリ
   (インクアノク遺跡より発見された碑文)

 S−1 馬肉はわさび園で採れるか?

 ジャック・ウェインは夏休みだというのに図書館に籠もってひとつのリポートを纏め上げていた。タイトルは「アイオリに関する考察」。
 先日雲の中で遭遇した得体の知れない物体を、伝説の空中都市アイオリと想定しての考察が述べられている。
 彼の頭の中では既にアイオリの様子が描かれていた。数え切れぬ気球や飛行船、そして見たこともない空飛ぶ乗物が所狭しと並べられている港。住人はそれらに乗って、地上へと飛び立つのだ。 更には飛行船で空の散歩を楽しむエリシアルと自分も妄想していた……。
 ジャックは眼鏡を押し上げ、リポートの仕上げにかかった。

 人影が疎らな中、先程のリポートを携え、ジャックは学院の事務室に来ていた。先月検証学の教授から聞いた、アイオリを探している考古学者と会うためだった。
「え〜その教授なら、西方へ調査に行ってるよ。確かシスとか言ったかな……。」
 事務員の答えはそんなそっけないものだった。
「あ、手紙くらいなら出せると思いますよ。学院との定期連絡用の便があったから。」
「そうですか。どうも、ありがとうございます。」
 そう言った事情で、ジャックは手紙を添えて自分の考えと協力要請を伝えることにした。返事が返ってくるのは月末になるらしい。

 次に彼は検証学の教授の部屋を訪ねた。
 ジャックはアイオリの目撃証言が極端に少ないことに注目していた。これは先月と同じように、彼の街は常に雲に紛れているからではないかと考えていた。
 そこで、教授に気象に詳しい人物を紹介してもらおうと、ここまで訪ねてきたのだ。
「そうじゃのぅ。単に天候予測となると農学の範疇じゃが、更に詳しい専門的な気象となると、天文学のほうになるかの。」
 教授はそう言って、何やらリストを取り出した。
「天文学の……と。ふむ、彼女を訪ねてみるといいじゃろ。」
 そこには中学校で天文学を教えている女性の先生の名が印されていた。

「まったく何回遅刻すれば気が済むのかしらっ!」
 ジャックが中学校の職員室へ入ったとき、最初に聞こえた声がこれであった。中では教授に紹介された女性が、受け持ちの生徒の前期の出席状況を調べている最中だったらしい。
「あ、ごめんなさい。何か用かしら?」
 目が点になってるジャックに気づいたらしく、彼女はようやく取り合った。
「どうも、初めまして。ここ大学生のジャック・ウェインです。」
 それから今までの経緯を掻い摘んで話し、雲に関する情報を教えてほしいと頼んだ。
「そう、ちょっと眉唾ものだけど、面白そうね。私も協力させてね。とりあえず私の記憶ではそんなに怪しい雲の目撃例っていうのはないけど……まぁ、夏休みの間に調べておくわ。」





08:36:16 | hastur | comments(0) | TrackBacks