May 13, 2005

第3回リアクション E2 S−3


 S−3 青色の結果

 あたいはその日も、見えない鳥の世話をしていた。水と餌を取り替える。不思議なことに餌は減っていたし、鳥籠の底はちゃんと掃除をしないと汚れていた。それが、この中に鳥がいる証拠となっていた。
 その時、ふらりと誰かが台所に入って来た。<誰でもない>だった。
 突然の遭遇に少し慌てた。
 きちんと世話をしてくれてますね。ありがとうございます。
 そう言ってあたいに笑いかけた。その時、あたいはあることが知りたくて、彼女に質問した。
 なぁ、<誰でもない>はいつからここにいるんだい?
 いつから……ですか? 生まれたときからですよ。私の母は、ここで私を生んだのです。
 ということは、一度もこの館の外に出たことが無い?
 これで少しはっきりした。彼女は人間を見たことが無いのだ。
 で、両親は?
 あたいは何げなく質問した。
 母は私を生んだ後に死にました。この館の魔法が悪影響を与えたようです。
 老いの速度が遅いということは胎児の成長が遅いということです。長い妊娠期間のせいで母は体調を崩し、そのまま死にました。
 父は…………私が殺しました。
 そう言って<誰でもない>は去って行った。
 あたいは、ただ立ち尽くしていた。


(次回「ある殺人に関する物語」へ続く……)




指針NO.

E01:館を調べる。
E02:<誰でもない>と話をする。
E03:<誰でもない>の邪魔をする。
E04:見えない鳥を調べる。
E05:Love2あいしてる(笑)。
E99:その他のことをする。





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May 11, 2005

第3回リアクション E2 S−2


 S−2 天井裏の星空

 食事が終わると、あたいはクラヤミとルアと一緒に館の中を歩き回り始めた。
 あたいら人間が入ることが出来たということは、ここはエルフの避難所として以外の意味があるのかもしれない。そう思ったからだ。
 まず、柱時計の前に来た。クラヤミは特に興味を示さず……というか、早くここから離れたがっているようにホールの中央へ動いた。あたいはそのことを頭に留めた。
 その他の一階の部屋では、何も反応を得られなかった。
 二階の各部屋でも同じだった。ただぐるぐると部屋を回って見ているだけという感じだった。
 ……上、行ってみよーぜ。
 あたいは三階に行くことをルアに提案した。ルアもこのままでは埒があかないと感じていたらしく、うん、行こう、と返事を返した。
 クラヤミは特に何も返事をしなかった。よく考えれば、クラヤミだけで三階以上に行くことは不可能なのだ。何か魔法か何かがあれば別だけど……。
 あたいは螺旋階段の終点、二階の天井の戸を押し上げた。ぎぃ、と音を立てて戸は開き、最初に視界に入ったのは本だった。
 少し階段を上がり、三階を見回すとどこを見ても本があった。そこは図書室のようだった。本棚と本が所狭しと並んでいた。

 本の鑑定はルアに任せた。彼は図書館学もかじっているからだ。
 あたいもそこらへんの本を手当たり次第手にとって読んで見た。でも大部分の本は古い文体で書かれていて、読みづらかった。だから出来るだけ挿絵のある本を眺めていた。
 暫くするとルアが調べた結果を告げた。
 これ、一番新しい本で250年以上も前のものだよ。古い本はエルフの言葉で書かれているものが多くて何が書いてあるのか分からない。……それと、面白いものを見つけたよ。
 そう言って木の装丁の本を一冊取り出した。開いたページには人型の何かの絵が描かれていた。
 それはドワーフをもっと背を高くして醜くしたものに見えた。獣人から高貴さをとったものにも見えた。
 そしてその絵に添えられている説明に、人間、と書かれていた。
 これが人間?
 ここにある人間についての記述は、全部こんな感じだったよ。
 ルアはそう付け加えた。
 もし<誰でもない>がこれらの本でしか人間を知らないとしたら、あたいらを人間とは思わないだろう。
 それと、この館に関する記録も少しあった。館の中へ送られたエルフは二人の男女で、一匹の猫も一緒だった、と書かれていた。

 図書室の深奥には、さらに上へ上がるための梯子があった。
 あたいはルアと相談し、四階へ上がってみることにした。
 梯子を登り、天井の戸を押し開けると、その先は暗かった。今までの階はどこでも燭台が壁にあって、明かりが保たれていたけど、この上にはそういったものが無いようだった。
 ルアも上がってきた。あたいらは目が慣れるまでそこでじっとしていた。あたいはちょっと恐くなって、思わずルアの肘を手に取った。
 暫くするとルアが何かに気づいたらしく、あっ、と声を上げた。
 ほら、天井、見てよ。
 あたいは言われるまま上へ視線を移した。
 そこにはいくつもの輝点がちりばめられていた。それが星を表しているということはすぐに分かった。
 それは例え疑似とはいえ、三カ月振りの星空だった。あたいらは少しの間、そのなつかしい風景に浸っていた。




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May 10, 2005

第3回リアクション E2 S−1


 ある父と娘に関する物語・B


 あたいの父親は昔、家を追い出された事がある。それでも笑ってあたいにこう言うのだ。
 私はジェイルほど強くなかったからね。いつもどうやって家に戻してもらおうか、そればっかり考がえていたよ。
 ……あたいだって強くもなけりゃ、早く家に帰りたいよ。


 S−1 青色の鳥

 あたいは以前にも増して警戒を強めていた。先日聞いた<誰でもない>の話のせいだ。
 彼女は人間を滅ぼす魔法を作ろうとしている。もしかするとあたいら二人を抹殺するくらいの魔法は出来ているのかもしれない。あたいらがエルフでないと知ったら……。
 人間だとばれないようにこそこそと暮らしていくの? それとも外に出る方法を見つけてここから逃げる?
 どちらにしても、人間を滅ぼす魔法なんて完成させるワケにゃいかねーし。
 とにかくまだ謎が多いと思った。煙と音楽、<誰でもない>の真意、そういえば彼女はどこにいるのだろう? 館の三階以上にもまだ行ってないし……。
 そのとき、新たな疑問が湧いた。クラヤミの事だ。あの猫はあたいらのことを人間だと見抜いているはずじゃ……これだけ一緒にいるのだし。それとも何か別の事情があるのか。
 あたいはクラヤミを探しに、緑色の部屋から飛び出した。

 螺旋階段を勢いよく降りると、少し目が回った。仄かな灯火に照らされている、だだっ広いホールを見回してみたが、クラヤミはいないようだった。
 柱時計は5月5日の朝を示していた。あたいは台所へと回った。
 クラヤミはそこのテーブルの上でうたた寝をしていた。その前方には見慣れないものがあった。それは少し大きめの鳥籠だった。しなやかな木の枝を編んで作られたもので、内側には餌と水を入れる器もついていた。足りないのは中にいるはずの鳥だけだった。
 よく見るとその横にカードが置かれていた。
 ノースウィンドさんへ。この鳥の世話をお願いします。餌は湧き場所から出るはずです。<誰でもない>より。
 カードにはそう書かれていた。あたいはなんとなく馬鹿にされた気分だった。空っぽの鳥籠の世話?
 その頃になるとクラヤミも大きなあくびをして起き出していた。そしてあたいと鳥籠を交互に見交わした。ちゃんとめんどう見ろよ、と言ってるようだった。
 分かったよ、みりゃーいんだろ。
 半分自棄だった。

 そうこうしていると朝食をとりにルアが降りてきた。ルアはいつもと違って陰鬱な感じだった。
 彼はうつむき加減で小さく、おはよう、と言って台所のテーブルに着いた。鳥籠の存在に気づいたらしく、あたいにこう言った。
 どうしたの? この鳥。
 ……あたいは暫く返す言葉がなかった。どうしたの? この鳥籠。そう尋ねられると思い込んでいた。でもルアは、この鳥、と言った。
 ルアは特にふざけている様子でもなかった。やっぱり彼には見えているのだろう、さらに言葉を続けた。
 綺麗な青い鳥だね。
 そう言われて初めてこの鳥の色を知った。まだ形や大きさ、鳴き声といった大部分が謎のままだった。でもあたいは間髪いれずに答えを返した。
 ああ、頼まれちゃってね。世話することになったんだ。
 あたいは、あたいには鳥が見えていないという事実をとっさに隠した。なぜそうしたのかは分からなかったけど、ある種の劣等感に似たような感情が働いていたように思う。
 ちょっと待ってな。すぐ朝飯用意するからさ。
 あたいは何かをごまかすように朝食の準備に取り掛かった。湧き場所の樽の中には小さな布袋に入ったトウモロコシの粒があって、それが例の餌なんだなと察した。

 前の日に作った鶏ガラスープを温めた。簡単に卵を焼いて、葉菜と果物でサラダを作った。黒パンを皿に乗せた。
 そうして食卓を整えた後も、ルアはどこか暗かった。その直接の原因は大体予想がついた。<誰でもない>だろう。
 だからといってこんなに暗いルアは見たことがなかった。あたいは……気になった。
 どうした?
 あたいはルアの顔を覗き込んだ。
 するとルアはびっくりしたように後ろにのけぞった。
 な、なんでもないよ。
 と慌てていた。でもすぐに気を取り直してあたいに問いかけた。
 ジェイルは早く、ここから出たい……よね?
 まぁね。出来りゃ、早く出たいね。
 ルアはそのあたいの回答を噛み締めているようだった。食事する手を止めて、何か考え込んでいるようだった。
 もしかすると、脱出方法が見つからないことで、焦っているのかもしれない。
 なぁ、熱すぎるスープは冷めるまで待てばいい、って言葉知ってる? 焦ったって、いい考えは出て来ないさ。
 あたいはそう言ってルアを慰めた。
 ルアは小さくうなずいて、パンを食べ続けた。少しは気が楽になっているようだった。




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