February 11, 2005
第3回リアクション E1 S−4
S−4 疑問の触媒
それから数日後、ホールでばったり<誰でもない>さんと出合った。
僕はそれとなく、魔法の研究の進み具合を聞いてみた。
もう少しで完成なのですが……いい触媒が見つからなくて。
その返事を聞いて、僕はやっと思い出した。魔法には触媒が必要だと聞いたことがある。
どんな触媒がいいの?
そうですね、三種類くらい必要となりそうです。一つは逆さまな生き物。一つは回る生き物。そしてもう一つは輝く生き物。
……そうなんだ。じゃ、頑張ってね。
何を頑張るのか分からないけど、僕はそう言って別れた。
そういえばこの館の維持の魔法、触媒は何なんだろう……。
(次回「ある殺人に関する物語」へ続く……)
指針NO.
E01:館を調べる。
E02:<誰でもない>と話をする。
E03:<誰でもない>の邪魔をする。
E05:Love2あいしてる(笑)。
E06:触媒を探す/推測する。
E99:その他のことをする。
01:39:43 |
hastur |
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February 09, 2005
第3回リアクション E1 S−3
S−3 再開の上昇
食事が終わると、僕はクラヤミとジェイルと一緒に館の中を歩き回り始めた。
あたいら人間が入ることが出来たということは、ここはエルフの避難所として以外の意味があるのかもしれない。ジェイルはそう説明した。
まず、柱時計の前に来た。クラヤミは特に興味を示さず……というか、早くここから離れたがっているようにホールの中央へ動いた。僕はそのことを頭に留めた。
その他の一階の部屋では、何も反応を得られなかった。
二階の各部屋でも同じだった。ただぐるぐると部屋を回って見ているだけという感じだった。
……上、行ってみよーぜ。
ジェイルは三階に行くことを僕に提案した。僕もこのままでは埒があかないと感じていたので、うん、行こう、と返事を返した。
クラヤミは特に何も返事をしなかった。よく考えれば、クラヤミだけで三階以上に行くことは不可能なのだ。何か魔法か何かがあれば別だけど……。
ジェイルは螺旋階段の終点、二階の天井の戸を押し上げた。ぎぃ、と音を立てて戸は開き、最初に視界に入ったのは本だった。
少し階段を上がり、三階を見回すとどこを見ても本があった。そこは図書室のようだった。本棚と本が所狭しと並んでいた。
本の鑑定は僕が受け持った。僕は図書館学もかじっているからだ。
ジェイルもそこらへんの本を手当たり次第手にとって読んでいるようだった。
暫く調べると面白いことがいろいろ分かった。僕はジェイルにそれらを教えた。
これ、一番新しい本で250年以上も前のものだよ。古い本はエルフの言葉で書かれているものが多くて何が書いてあるのか分からない。……それと、面白いものを見つけたよ。
そう言って木の装丁の本を一冊取り出した。開いたページには人型の何かの絵が描かれていた。
それはドワーフをもっと背を高くして醜くしたものに見えた。獣人から高貴さをとったものにも見えた。
そしてその絵に添えられている説明に、人間、と書かれていた。
これが人間?
ここにある人間についての記述は、全部こんな感じだったよ。
僕はそう付け加えた。
もし<誰でもない>さんがこれらの本でしか人間を知らないとしたら、僕らを人間とは思わないだろう。
それと、この館に関する記録も少しあった。館の中へ送られたエルフは二人の男女で、一匹の猫も一緒だった、と書かれていた。
図書室の深奥には、さらに上へ上がるための梯子があった。
僕はジェイルと相談し、四階へ上がってみることにした。
梯子を登り、天井の戸を押し開けると、その先は暗かった。今までの階はどこでも燭台が壁にあって、明かりが保たれていたけど、この上にはそういったものが無いようだった。
僕らは目が慣れるまでそこでじっとしていた。
僕は右肘に感触を覚えた。ジェイルが僕の肘を掴んだからだ。少し、この暗闇に恐がっているみたいだった。
暫くすると僕は気づいた。あっ、と声を上げた。
ほら、天井、見てよ。
ジェイルは言われるまま上へ視線を移した。
そこにはいくつもの輝点がちりばめられていた。それが星を表しているということはすぐに分かった。
星の配置は実際のものとは少し食い違っていたけど、かなり細かいところまで作り込まれていた。僕の星座も見つけることができた。
それは例え疑似とはいえ、三カ月振りの星空だった。僕らは少しの間、そのなつかしい風景に浸っていた。
00:14:55 |
hastur |
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February 07, 2005
第3回リアクション E1 S−2
S−2 スープの考え
台所に行くとジェイルとクラヤミがいた。僕はおはよう、とあいさつをして台所のテーブルに着いた。
そこには昨日までは無かった鳥籠があった。中には綺麗な青い鳥がいた。
どうしたの? この鳥。
僕はジェイルに問いかけた。彼女は何かに驚いている様子だった。
その時、鳥が鳴き声を聞かせてくれた。よくいる小型の鳥と、鳴き方は同じようだった。
綺麗な青い鳥だね。
僕がそう言うと、
ああ、頼まれちゃってね。世話することになったんだ。
とジェイルは答え返した。
誰に頼まれたのかは言わなかったけど、多分<誰でもない>さんにだろう。
ちょっと待ってな。すぐ朝飯用意するからさ。
ジェイルは朝食の準備に取り掛かった。
食卓にはスープと葉菜と果物のサラダ、黒パンが並んだ。
そうして食卓を整えられた後も、僕は考え込んでいた。
どうした?
気づくとジェイルが僕の顔を覗き込んでいた。
僕は驚いて後ろにのけぞった。
な、なんでもないよ。
と慌てていた。でもすぐに気を取り直してジェイルに問いかけた。
ジェイルは早く、ここから出たい……よね?
まぁね。出来りゃ、早く出たいね。
僕はそのジェイルの回答を噛み締めていた。
やっぱり外に出る方法を探すことが先決なのか。僕はどうするべきなのか。また長い間考え込んでいた。
なぁ、熱すぎるスープは冷めるまで待てばいい、って言葉知ってる? 焦ったって、いい考えは出て来ないさ。
ジェイルはそう言葉をかけてくれた。
そうかもしれない。今はとりあえず動こう。考え込むのはその後でもいい。
僕は小さくうなずいて、パンを食べ続けた。
08:47:07 |
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February 06, 2005
第3回リアクション E1 S−1
第3回リアクション E1 ハスター
ある父と娘に関する物語・A
父の厳しさが僕の人格陶冶に影響を与えた。
僕は中途半端が嫌いな性格になった。
母の明るさが僕の人格陶冶に影響を与えた。
僕は素直な性格になった。
いずれ、僕が誰かの人格陶冶に影響を与える。
それは父と母の影響でもある。
S−1 葛藤の湧き場所
僕は青色の部屋に閉じ籠もっていた。<誰でもない>さんの話したことは僕の思考を暗い方へと沈み込ませていた。
全くその前の月の楽観的な考えは、一つも浮かんでこなかった。あの時、もっといろんな状況について考えていたら、と後悔さえしていた。例えそう考え込んでいても、現状を変えることはなかったと分かっていても……。
部屋はベッドと小さな机があるだけだった。窓には板が打ち付けられていて、窓本来の役割を果たしてはいなかった。壁には二か所に燭台があり、その蝋燭の灯火でものを見ることができた。
僕はそのうちの一つをじっと見つめて黙考していた。揺れる小さな炎の中に妙案が隠されている訳でもないのに。
<誰でもない>さんは僕たちをどうするのだろう? 彼女は人間を滅ぼす魔法を作り上げようとしている。もし僕たちが人間だと知ったら……。
この前彼女と話したときはそれほど殺気というものは感じられなかった。それは話し相手がエルフだと思い込んでいるからかもしれないし、彼女の中で続いている戦争という状態が、その殺意を覆い隠しているのかもしれない。
どうして戦争なのだろう? どうしてみんなで仲良くできないのだろう? 学院で習った歴史では、戦争を終わらせるために戦争をした、と教えられた。そうして200年前、今のフラニス家の祖先が国を興した。
でもどうやってみても、エルフから見たら人間は侵略者なのだろう。<誰でもない>さんがやろうとしていることは、彼女たちからみれば正義……?
だからといって人間を全て滅ぼすなんて許される訳がない。僕たちの祖先の罪を、僕たちが贖うなんて事は出来ないし、既に新しい関係が確立しているのだから。多分、この時代のずれが問題なんだと思う。
老いを遅らせる魔法がかかっているここに、彼女はいつから籠もっているのだろう?
これからどうすればいいのか? この点については僕はちっとも結論が出ないでいた。
そもそも、この館から出たいのかどうかさえ分からなくなってきていた。
出ることが出来るのかも分からないうちに、出た後のことを危惧していた。
外に出られるということは、あの魔法が完成しているということだから、人間が滅んでしまうかもしれない。そんな大それた考えではなかった。家に帰ると、今まで何をやっていた、と怒られるかもしれない。学院もやめさせられるかもしれない。こんな個人的なことを考えていた。
でも、なぜかそんな個人的なことが多くを占めていた。
ジェイルはどうするのだろう? やっぱり外に出たがってるのだろうか? もし出られたとしても、ジェイルとはもう会えなくなるのかもしれない。そう思うと胸が苦しくなった。なぜだか分からないけど、胸が苦しかった……。
と、その時、グーッとおなかが鳴った。僕は自分の身体に少し飽きれた。
悩んでいても、落ち込んでいても空腹はやってくるということを、初めて知った。
08:12:38 |
hastur |
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