September 13, 2007

第8回リアクション E2 S−1


寒い国から帰ったスパイ (The Spy Who Came in from the Cold)



 さて、物事の秘密を探る方法としては、どのような手段が挙げられるだろうか。
 一番現実的で直截的なのは、対象となる人物に接触し、聞き出すことであろう。
 しかし、相手が警戒し本当のことを話さない可能性もある。そこを乗り越える為に、こちらが「探っている」ということを相手に悟られないような工夫が必要となる。
 これが「スパイ」の始まりではないか。


 S−1 本能

 《鎚と環》のクロノス・サイクラノスは、《怪異学派》のロッコ・アウアアの行動を探ろうと考えていた。しかし、途方に暮れているところだった。
 ロッコの動向を探ろうと思っているのだが、具体的にどうやって探るのか、そこまでは思案していなかったので当然といえば当然だが。例えるならば「今日は肉料理にしよう」というところまでしか考えておらず、焼くのか煮るのか、あるいは辛い味付けにするのかそうでないのか、そういう具体的な料理法までは決めていない、とりあえず肉だけは手に入れているという感じであろうか。このような状態ならば、肉を眺めて指をくわえるしかないのではないか。……肉を放り込めば自動的に美味しく調理されるような魔法の箱でもあれば話は別だろうが。
 とりあえず、あとをつけるという方法を実践してみるクロノスだった。

 放課後になると、見失わないようにロッコの後を尾行するクロノス。ロッコは何か忙しそうに、早足で廊下を移動していた。
 すると、ロッコはとある部屋に入っていった。風紀委員の部屋だ。
 クロノスは中の様子を窺おうと、レアを扉の前に送った。聴覚を同調させ、中の会話を聞き取ろうと試みる。
 しかし、何も聞こえてこなかった。まるで、誰もいない部屋のようだ。
「おかしいですねぇ……。」
「ルークがいるんだろ。」
 急に後ろから話しかけられ、慌てて振り返るクロノス。そこにはいつの間にか、灰色のローブを着込んだ、中年の男が立っていた。
「『凪』の精霊であるルークは、防音魔法が得意だからな。」
 男は気にせず解説を続ける。
「困りましたね。これでは手詰まりですよ。」
「ロッコを調べたいのかい? じゃ、簡単な方法があるが。」
「それは……?」
「ヘクサリオンに入ればいい。内側から色々と調べる事が出来るだろう。……まぁ、君が入隊できるかどうかはかなり怪しいがな。」
「どういう意味で……?」
 クロノスは疑問を口に出す事しか出来ない。
「適性ってものがある訳だよ。じゃ、カミさんが煩いんで俺はこの辺で。」
 立ち去ろうとする灰色ローブの男。
「あなたは一体、何者ですか?」
「ただの噂好きなおじさんさ。」
 その言葉だけ残し、男はその場を去った。
「誰だったんでしょう……あ。」
 そこまで言ってクロノスは思い出した。今日の放課後、ブラシウス・ヘルバの手伝いについての説明が行われる事を。
 急いでレアを引き戻し、クロノスは教諭塔へと駆けていった。





00:04:28 | hastur | comments(0) | TrackBacks