September 01, 2007

第7回リアクション E1 S−1


卒業 (The Graduate)



 卒業だけが理由でしょうか?
 否。それそのものが直接的な原因ではなくイヴェントを口実として言い逃れようとする意志が見え隠れしており所謂「旅の恥は掻き捨て」的な曲がった根性で言うなれば所詮虚け者。
 …………。


 S−1 日曜日には鼠を殺せ

「先輩〜。今度は何を作ってるんですか?」
 ここは《アルカディアにもいるもの》グレイ・アズロックと《怪異学派》ザイクロトル・オークラノスの居室。グレイは卒業試験に向けて、寄宿舎の自分の部屋で新たな人工生命を作成中だ。
「電気鼠に対抗しうる、新たな鼠です。」
 卒業試験の内容は、先週ミアたちが逃がしてしまった「電気鼠」という人工生命を捕らえるというものだった。ただ捕らえるだけではなく、グレイの作った人工生命を使ってという条件付きだ。
「電気鼠……? ま、名前の通り、電気を発する鼠かい?」
 グレイは首肯する。作成に集中している為、受け答えも適当だ。
 やがて、それは完成した。捕らえてきた鼠に《アルカディアにもいるもの》の魔術を加え、改造を施したものだ。見た目は普通の鼠と然程変わりないように見える。
「命名『ゴムネズミ』。これで、あの電気鼠にも勝てるでしょう。」
「先輩……『ゴム』って……?」
 当然、コリアエには石油精製物など存在しない……。
「あ、この鳴き声ですよ。」
 見ると、そのネズミは「ゴムゴム……ゴムゴム……」と鳴き声を上げている。
「このネズミには表面に電気を通さないコーティングが施されているんです。また、粘着質の体液を口から吐き出す事も出来ます。」
 満足気に説明するグレイ。ザイクロトルは今一納得してないようだ。
「まぁ、そちらの師匠も変わり者だからなぁ……。そんなんでも大丈夫か。」
 自分の師匠、インタ・スタアゲの事を棚に上げ、ザイクロトルはそんな言葉を漏らした。
「で、そっちも先輩の作品?」
 次にベッドの脚に紐で繋がれている、細長い白い動物の方へ話題を振る。
「いえ、それは先生の。『ヘビウサギ』という人工生命です。これが電気鼠の居場所を知らせてくれるんです。」
 その台詞に呼応するように、ヘビウサギが「うさうさ……うさうさ……」と奇妙な鳴き声を聞かせる。
「明日にも電気鼠を倒しに行くので、今日のところはもう寝ましょう。」
 部屋の明かりを消すグレイ。暗闇の中、「うさうさ……うさうさ……」「ゴムゴム……ゴムゴム……」という鳴き声が部屋の中を木霊し続けた。

 翌朝。ちょっとした異変が起こっていた。
「……ヘビウサギは?」
 しっかりと紐で繋いでいたはずのヘビウサギがいないのだ。いや、一応、紐と繋がってはいたが。ヘビウサギの白い毛皮だけは。
「…………。」
 これにはグレイも言葉を失った。
 数分の混乱の後、グレイはヘビウサギの抜け殻を手に持って、テオフラスト・パラケルススの部屋へと駆けて行った。





07:16:05 | hastur | comments(0) | TrackBacks