July 19, 2007

第6回リアクション E1 S−1

悪魔のようなあなた (Diaboliquement votre)



 やあやあ! 遠からんものは音にも聞け。近くば寄って眼にも見よ!
 我こそは《アルカディアにもいるもの》副学部長、テオフラスト・パラケルススなり!
 さあ我と思わん者は前に出よ! 人工生命の餌にしてくれようぞ!

 ……なんて口上は述べたりしないか、テオフラストは。


 S−1 イグアナの夜

 月曜の夜、グレイ・アズロックとミアは、師匠であるテオフラスト・パラケルススの部屋にいた。翌日に控えたテオフラストの発表会、その準備を手伝う為だ。
 まぁ、約一名、手伝いになっていない者もいるが。
「ね? 師匠、これ何?」
 物珍しそうに檻の中を覗き込むミア。
「馬鹿もんが。この忙しい時に手を煩わすでない!」
 鉄拳制裁。当然、杖の手で。
「いった〜い……。あれ? この箱は?」
 見慣れない箱が置いてある。大きさはミアが丁度入るくらい。
「ほっほ。それが明日のメインイベントじゃ。……触るでないぞ?」
「ふ〜ん……。ねぇ、聞いていい?」
「なんじゃ?」
「インザーラちゃん、じつは師匠が作った人工生命?」
「……その通りじゃ。なかなか鋭いの。」
 テオフラストが少しだけ感心してみせる。
「えへへ〜ほめられちゃった☆」
 一方、グレイは書類を分類したり、集めたりしている。いつもはテオフラストが適当に散らかしているので、分類するのも一苦労だ。
「先生。結局この箱、どうやって講堂まで持っていくんですか?」
「おぬしの『カゴアシ』でも使えばよかろう。」
 『カゴアシ』とはグレイが作り上げた人工生命だ。知能は低いが、物を運搬するのには重宝する。その姿は籠に足が付いているだけという機能重視のものだ。
 その時、扉を叩く音が聞こえた。
「誰でしょう、こんな時間に……。出てみますね。」
 そう言いながら、扉を開けるグレイ。そして、扉の前にいたものを見て言葉を失う。
「…………! 先生……。」
「なんじゃ。お化けでも見たような顔をして。」
「お化けです。」
「は?」
 それは、そんな二人のやり取りを無視するかのように、部屋の中へ入ってきた。大きな身体のそれは、奇妙な事に足と頭部が見当たらなかった。
「あ〜お化けだ♪」
 のん気にそんな事を言うミア。しかし、何かに引っかかったようだ。
「あれ? これって……。」
「知ってるんですか?」
「うん。コリューンちゃんが言ってた物とそっくりだぁ。」
 先週、コリューンが追っていると言っていた怪異(?)と、特徴がピタリと当てはまる。
「先生、これ、何物なんでしょう?」
 グレイはどうしてよいものやら分からず、師に答えを求める。
「儂もこんなものは知らんわい…………あっ。」
「今『あっ』って言いましたよね? 知ってるんでしょう?」
 問い詰めるグレイ。テオフラストが明確な答えを出さなかったら、小一時間は問い詰めそうな勢いだ。
「い、いや、昔こんなゴーレムを作ったような、作らなかったような……。」
「師匠! はっきりしなさい!」
 何故か強気なミア。
「おーそうじゃ、思い出した。これは儂が昔作った『フレッシュゴーレム』じゃ。これは胴体じゃが、他にも足や目玉もあるぞい。」
 懐かしむように語り始める変人魔術師。
「何で、バラバラなんですか?」
 グレイは当然の疑問をぶつける。
「いや、この方が、収納するのに便利かと思っての。」
 どこにしまうつもりだ。
 そんなツッコミをぐっと飲み込んで、グレイが詰問を続ける。
「それが、なんでここに?」
「まぁ、帰巣本能という奴かのぉ。」
 カラカラと笑うテオフラスト。
 グレイは、どっと疲れた。





00:05:29 | hastur | comments(0) | TrackBacks