June 02, 2007

第5回リアクション E1 S−2


 S−2 明日に向って撃て!

 寄宿舎の一階は学食になっており、そこは食事の場としてだけではなくサロンの役割も担っていた。ミアとコリューンはこの食堂で、噂話に花を咲かせていた。
「ねえ、『ゆりかご塔の開かずの間』って、まだありました?」
 言葉遣いは丁寧だが、行動は然程丁寧ではないコリューン。好奇心は旺盛な方だ。
「あーあったあった。《アグリコラ》の人たちも、ミアたちを近づけないようにしてたっけ。」
「あれ、何があるんですかね?」
 この手の不思議な話は、この学院ならばゴロゴロしている。大抵は「魔法でした」という落ちなのだが。
「さぁ……塔の主、とかいたりして? ね、コリューンちゃんは今日何してたの?」
 逆に質問するミア。
「ファブレオさんに付け回っているバズを調べようとしてたんですけど……。」

 《アルカディアにもいるもの》の学生、ファブレオ・アントニオは、先週から正体不明のバズに付きまとわれていた。それを聞いたコリューンは調査を引き受けたのだった。
「ファブレオさん、そのバズに追われる理由って心当たりないです?」
 聞きにくいこともずばずば言う。
「さあね。怪異に好かれる体質だったとは、この23年間気づかなかったよ。」
 ファブレオは冗談めかして答える。
「本当に心当たりは?」
「無いな……。」
 ちなみに同流派とは言え、ファブレオとコリューンでは師匠が違う。コリューンはテオフラストの弟子で、ファブレオはエリクシール・パルヴスの弟子だ。この一事だけで、普段顔を合わせる機会は違ってくると言うもの。それ程面識の無いコリューンには、彼が嘘をついているのかどうかまでは計りかねていた。
「じゃあ……そのバズ、使い魔にされたがっているっていうことは無いですか?」
「おいおい、そりゃないだろう。私は《怪異学派》じゃない。」
 一言で否定される。確かに怪異を使い魔にする事が出来るのは《怪異学派》の魔術師たちだけだろう。
「それに、使い魔にされたがる怪異なんているのか? まあ、それ程怪異には詳しくないんで分からないけどな。」
 そう言ってファブレオは飲み物を口にする。紫色をした奇妙な飲み物だ。
「では、怪異に堕ちた魔術師で、何か訴えかけようとしてるとか。」
 コリューンが別の推論を述べる。
「なるほど。色々考えているんだな。」
 少し感心してみせる。
「だが、怪異に堕ちた者ってのは、既に自我が失われているものなんじゃないか? これも、《怪異学派》の奴らの方が、詳しいとは思うがね。」
 次々とファブレオに反論される。コリューンは少し、短めの髪をかきあげた。
「まあ、とにかく色々調べてみます。例のバズはどこに?」
「そりゃ頼もしいな。バズなら……ほら、あそこでこっちを見てる。」
 ファブレオの指差した先、食堂の隅に例のバズがいた。こちらの様子を観察していると言う感じだ。
「こっちはこっちで忙しいんでね。あんなのに構ってる暇は無い。」
「何かあったんですか?」
「トックの大一番があるし……サイス・マリナス助手の件もあるしな。」
 サイス・マリナスの件とは、《怪異学派》の助手であるサイスが、トックを喉に詰まらせて死亡したという事件の事だ。
 トックの練習があるので、とファブレオは席を立った。その後をバズが追いかけていく。コリューンはその様子を目で追った。

「……という訳で、まだ大した情報はないんですけど。」
「へぇ……なんか面白そう♪」
 ミアにとっては十分興味をそそる話だったらしい。
「で、他には?」
「他にって……寄宿舎を騒がせてる怪異とか追ってみようかと思ってます。」
「あーそれも面白そう♪ ミアも手伝っていい?」
「駄目でしょう。まだまともに魔法も使えないんじゃ、足手まとい。」
「え〜コリューンちゃんのけち。」






08:28:34 | hastur | comments(0) | TrackBacks