June 14, 2007

第5回リアクション E1 S−4


 S−4 白昼の通り魔

 ついにその日がやってきてしまった。
 インザーラ・ティスが全ての機能を停止させたのだ。つまり「死んだ」。
 殆ど面識のなかったミアだったが、姉弟子の死に直面し、心を痛めた。暫く目を伏せる。
「はやり、マンドラゴラが手に入らなかったのが痛かったかの……。」
 師匠の方はと言えば、それほどまでには悲しんでいる様子は無い。
「師匠。治すことは出来なかったの? って、何の病気だっけ?」
 普段ならば杖でツッコミを入れるところだろうが、今はそうしなかった。
「病気ではない。寿命じゃ。」
「え? 嘘? 師匠より全然若いじゃない。」
「『師匠より』は余計じゃ。」
 ごつん。
 やっぱり突っ込まれた。
 インザーラは見た目、30代くらいに見える。長寿の魔術師と言えど、テオフラストより先に寿命が来るとは思えなかった。
「まぁ、これで一応の結果を見せる事が出来た。来週、研究発表を行うぞ。」
 ミアの頭は疑問符で溢れていたが、師匠はいたって真面目なように見えた。

 一方、コリューンはバズをつけていた。相変わらずバズはファブレオの後を追っている。それに気づかれないようコリューンが尾行を続ける。
 ある時、バズの異変に気づいた。なにやらブツブツ独り言を言っているようだ。
 コリューンは《アルカディアにもいるもの》の流派魔術を用い、聴覚を上げてみた。
「……さて、そろそろ潮時か?……。」
 驚いた。バズが喋るとは。元々バズと言えば、知能の低い怪異として知られている。
 しかし、驚く事は更に続いた。
 目の前のバズが、変化し始めたのだ。そして、あっという間に一人の人間の姿に変わる。あの小さなバズが、なぜこんなに大きな人間になれるのか。
 信じられない現象の連続で、やや呆然としていたコリューンだったが、直ぐに気を取り直し追跡を開始した。バズが化けた人間は、しっかりとした体格の男のようだった。何故か衣類もちゃんと身につけている。変身の過程で体から服が「生えてきた」ように見えた。
「ファブレオ。ちょっと……。」
 その元バズは、何気なくファブレオに声をかけた。
「リチャードか。なんだ?」
 何事も無いように返事を返すファブレオ。
 そのまま二人は足早に、ひと気の付かないところへ移動した。ファブレオに先ほどの事を伝えようか迷っていたコリューンは、結局何も出来なかった。
 そして、巻かれてしまった……。






08:47:14 | hastur | comments(0) | TrackBacks