May 07, 2007
第4回リアクション E4 S−1
山 (The Mountain)
その男は、先週の雪辱に燃えていた。
執念という名の武器を抱え、食堂へと舞い戻ったのである。
俺は負け犬なんかじゃねぇ……! 先週の俺とは一味違う事を思い知らせてやる……!
そう言わんばかりの気迫に
その女と精霊は、まるでこの登攀を楽しむかのように軽い足取りで登場した。
無邪気さと溌剌さ……それは
ルゥルゥたちの挑戦は、まだまだ続くのよっ!
そして、場は熱気と混乱に包まれていく……。
では、その一部始終を見よ。
S−1 仁義なき戦い
コリアエには「登頂」と呼ばれる競技が存在する。トックやペンタとは比べ物にならないほど、マイナーな競技であるし、好記録を出したところで、それ程名誉な事とは思われない。
「登頂」とは簡単に言ってしまえば、大食い、早食いを競うものだ。魔法により、安定的な食料を供給できるコリアエならではの競技といえる。下界から時に「飽食の島」と揶揄されるのはこの為だ。
今日も「登山者(*1)」が集まりつつあった。
「はい、え〜と、ミルクバナナフラッペが一つに、鍋アイスが二つ。あと、鍋スパ一つね。」
注文を繰り返すのは“夕陽の料理人”アリシア。確認しながら厨房へと姿を消す。中からは「インザーラ、鍋スパ一つ、お願いね」「え〜、あんな重いもの作ったら、疲れて倒れてしまいますよ」というやり取りが聞こえる。
さて、注文した者を紹介しよう。
ミルクバナナフラッペを頼んだのは《怪異学派》リクト・マイウェル。先週も同じものを挑戦したが、あえなく遭難してしまった。
鍋アイスと鍋スパを注文したのは《契約者》ルゥ・ルゥとその配下ティア。今回は二人でこの二つのメニューを半分ずつ食べきる気らしい。
最後に、鍋アイスに挑戦するのは《アルカディアにもいるもの》レビィ・ジェイクール。初物には挑戦しなければという
暫くすると、アリシアが四つの巨大メニューを運んでくる。両耳に三つずつイヤリングをしているので、歩く度にちゃらちゃらと音を立てている。
「これはルゥとティアで半分ずつ食べるのね? 一応、アラインゲーエン(*2)になるかしら。」
二人の前に鍋を並べつつ、話しかけるアリシア。
「はい、今回は頑張ってね。」
再登(*3)のリクトに声をかける。今日も300mmがそびえ立つ。
「ちなみに、それ、二人でのパーティアタック最速登頂者はレディティオとテオフラストらしいわよ。」
「え? あの二人が?」
リクトには俄かには信じられなかった。犬猿の仲で知られる《鎚と輪》レディティオ・マニウス学部長と《アルカディアにもいるもの》テオフラスト・パラケルスス副学部長が、手を取り合ってこの山を制覇したなんて……。
「まぁ、かなり昔の記録だから、本当のところは分からないけどね。」
そして、最後にレビィの前へ、新メニュー鍋アイスがどかっと置かれる。当然未踏峰(*4)だ。
「初登頂(*5)は俺がもらったぜ。」
自信がみなぎるレビィ。
「また、新しいメニュー考えなきゃいけなくなるの? それより聞いてよ、今回の登頂とはあんま関係ないんだけどね。」
アリシアの口調に一瞬ぎょっとする。また、あの話につき合わされるのか?
しかし、その危険は回避された。
「ちょっと! アリシア! またこんな所で油売って!」
凄い剣幕でやってきたのは《契約者》ジータ・モラリス。アリシアの契約主だ。
「早くこっちに来なさい!」
「え? あ? ちょっと引っ張らないでよ〜。あっ、変なとこ触らな」
ゴツッ!
という訳で、アリシア退場。ジータがどんな技を繰り出したかは、ご想像に任せる。
(用語解説)
*1 登山者……登山者は、(一般的に)山に登る人、いま山に登っている人。登山家は、登山を趣味や職業にしている人。または登山に関する高い技術や知識を持ち、明確な哲学を持った人。
*2 アラインゲーエン……たんどくこう【単独行】パーティを組まず、独りで登山や登攀をすること。
単独登攀者は【アラインゲンガー】Alleingenger{G}【ソロクライマー】soloclimber{E}という。
*3 再登……一般に高難度ルートの第2登、第3登〜を指し、中には、初登者が第2登、第3登〜をする場合もある。
*4 未踏峰……まだ誰も頂上まで登っていない山。
*5 初登頂……初めてその山の頂上に登ることが初登頂で、ひとつの山については1回しかない。
08:33:59 |
hastur |
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