May 18, 2007
第4回リアクション E4 S−2
S−2 頂上作戦
四人一斉に入山を果たす。
リクトは先週同様、ミルクバナナフラッペに挑んでいるが、今回は一味違う。前回よりペースが速いのだ。これも慣れというものだろう。
そして、気合も入っていた。快調に飛ばすリクト。
隣ではルゥとティアが、それぞれ鍋アイスと鍋スパに取り掛かっている。こちらは前回同様、ペース配分を無視した登り方だ。
ルゥが鍋アイスの冷たさに苦しむと同時に、ティアが鍋スパの熱さに苦しむ。まさに「冷静と情熱のあいだ」(ちょっと違う)。
そしてレビィは、鍋アイスの初登頂を目指す。そのペースは、無茶苦茶なものだった。潰れるのも時間の問題と思われた。
最初にビバークを取ったのはルゥとティアだった。お互い、一合目にも達してない。
そして、気分転換にとルゥが歌いだした。
「♪な〜べなべなべなべあいす〜(な〜べ)あいす〜あいす〜〜!」
およそ音楽とは程遠い騒音を撒き散らすルゥ。ちなみに上の括弧書きはティアの合いの手だ。
当然、レビィとリクトは耳を押さえつつ抗議の声を上げる。
「お、おい、その騒音、やめろ……。」
ルゥは不思議そうな顔をして、取り合えず歌うのをやめた。もう十分、お腹の苦しさは紛れたらしい。
歌った時、厨房の方から何かが倒れるような音が聞こえたが、特に気にしない事にした。
無理なペースで食べ続けたレビィが、遂にというか、手が止まってしまった。
しかし、ここでレビィは秘策を披露する。自分の胃に、『癒し』の魔法をかけたのだ。エリクシール・パルヴスの弟子である彼には、朝飯前の作業だった。
そして、胃の不快感を取り除いた後、再び登攀を続けた。
リクトは登り続けていた。今、彼を支えているのは、負けたままではいけないという執念、根性、そういった精神論的な力であった。鬼気迫る勢いで登り続ける。そして、ただひたすら登り続ける。
これこそ、真の登山家の姿である。多分。
やがて、夜が更けてきた。
ルゥとティアは、登る→歌うを繰り返し、なんとか四合目に達していた。今日はここまでということで、残った鍋を預ける。
「そういえば、どうして丸一日も預けっぱなしで融けたり冷めたりしないのかな?」
「それは、ほら、『学院の七不思議』ってやつじゃない。」
「……他の六つは?」
「謎の十三階段、大メネラウスの隠し部屋、『ゆりかご塔』の開かずの間、這い寄る混沌、禁断の魔導書、いつまでたっても卒業できない《鎚と輪》の学生。この六つよ!」
自信たっぷりに答えるティア。
「ま、ド素人は寄宿舎の人体パーツ怪異でも追ってなさいってことよ。」
……ルゥはティアの両こめかみをグリグリした。
リクトは二度目の挑戦にして、見事完登(*6)していた。
しかし、精根果てた彼は、空になった皿を空虚な瞳で見つめ続けていた。何故かそこだけスポットライトが当たり、真っ白になったリクトを映し出していた。
レビィも登頂していた。だが、決して楽な登頂ではなかった。
魔法で胃の調子を整えるというのは好判断だが、『癒し』の魔法では胃の内容物を減らす事は出来ない。つまり、そういうことだ。
次回はルゥが標高300mmの冷麺、リクトが鍋アイスに挑戦する気らしい。
(用語解説)
*6 完登……クライミングで、ひとつのルートを登りきること。
08:34:31 |
hastur |
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