April 02, 2007

第4回リアクション E2 S−1


馬上の二人 (Two Rode Together)



 橋を渡り始めた馬は、リズムを乱す事無く駆け続けた。
 馬の主は一言も発する事は無く、馬蹄の鳴らす音だけが響く。
 同乗しているもう一人は、言葉を発する事が出来ない状態だ。
 周期的に訪れる振動。馬の息遣い。
 馬は一回だけ嘶いた。


 S−1 華麗なる陰謀

 グレイ・アズロックは、教諭塔のテオフラスト・パラケルススの部屋を訪れていた。
 部屋は雑然としており、見た事も無い生き物があちらこちらに保管してあった。
「なんじゃ?」
 テオフラストは不機嫌さを隠そうともせず、グレイを睨みつけた。どうやら、実験の最中だったらしい。
「前に言われてた、残りの20点。それについて話そうかと思いまして……。」
 少し気後れしつつも、用件を話し出すグレイ。
「もう分かったのか? ま、聞かせてみせい。」
「私がアデイさんやインザーラさんが人工生命だと思った理由は、先生の技術や性格です。
 先生はアデイさんの身を気にかけてましたし、アデイさんが先生の事を話す時、教えられた事を並び立ててるようだったので。それと……。」
 続けようとするところを、テオフラストが遮った。
「ふむ。問題の内容を取り違えたようじゃな。儂が言いたかったのは、ホムンクルスであるという事以外にまだ明かされてない部分がある、という事じゃ。論拠を補足せよとは言っとらん。」
 そう言うと、グレイの頭を軽く小突いた。杖の手で。
「出直してくるんじゃな。」
「はい……。」
 的外れの解答に辿り着いてしまった事に自嘲しながら、グレイは動物園を出て行った。

 寄宿舎の自分の部屋に帰ると、カゴアシに乗って遊んでいる女の子が目に入る。
「あ、グレイさん。お帰りなさい。これ、面白いですね。」
 乗って遊んでいるのは、妹弟子のコリューン・ナツメだ。10歳と歳は離れているが、彼女もテオフラストの弟子という事で、一筋縄ではいかない人物だろう。
「そんなに気に入ったんなら、もう一つ作ってあげますよ。」
「本当です? わたしにはまだ、こんなの作れないから嬉しいです。」
 グレイはその無邪気に喜ぶ姿を見て、少し気が晴れた。
「先輩、俺にも。」
 からかうように言うのは、同室のザイクロトル・オークラノス。《怪異学派》の学生だ。
「それよりさ、聞いてよ。今度は『腕』の形をした怪異を捕まえちゃったよ。」
 自慢げに話すザイクロトル。最近、寄宿舎に現れるという、体の部品を模した怪異の話だろう。
「それは……凄いですね。」
「そんなにのんびりしてていいのかい? うちの師匠、先輩んとこの師匠に……おっと、口が滑った。」
 慌てて口を塞ぐ。
「インタ・スタアゲ学部長が、先生に? 何を?」
「いや、気にしないでくれ。」
 ザイクロトルは逃げるように学食へと向かっていった。
「何を企んでるんでしょう?」
「さぁ……。」
 そういえば、学院長選挙と学部長選挙が近い。それと寄宿舎の怪異。何か関係があるのだろうか?





08:34:43 | hastur | comments(0) | TrackBacks