February 14, 2007

第3回リアクション E4 S−2


 S−2 特攻大作戦

 さて、ミルクバナナフラッペの三人の方はと言えば、ほぼ同時に入山した。
 スプーンという名のピッケル(*3)を、氷壁に叩き込む。
 リクトは慎重にその歩を進めている。「あれ」が怖いという事であろう。
 一方、ルゥとティアはガシガシと駆け上る感じだ。
「そんなペースで登っていったら……。」
 リクトが二人の身を案じる。
 そして、ルゥとティアに「あれ」が来た。そう、氷を一気に食べると来る、「あれ」である。
 キーーーンと頭が痛くなる。
 否、ギンギンッ、だった。
「痛い、痛い、頭が痛いよぉ……。」
 ルゥとティアは一種の高山病に悩まされ、早速ビバーク(*4)に入った。

 リクトはその後もペースを守りながら登り続ける。少し頭が痛くなったが、大したことはなかった。
 リクトが慎重になっているのは高山病の事だけではなかった。所謂、雪崩(*5)にも気を配っているのだ。
 皿から零れ落ちる食べ物というのは、至極もったいない。そういう思想の元の行動であろう。そういう意味ではリクトはアルピニスト(*6)と呼べた。
 そんな彼でも、その歩を緩める場面に遭遇した。二合目辺りに差し掛かった頃だ。
 ガキッとスプーンの先に何か硬い物が触れた。よくよく見てみると、それはカチカチに凍ったバナナだった。胃の方にはまだ幾分余裕のあったリクトだったが、既に舌の方は感覚を無くしつつあった。ここに来て、この硬いバナナは厳しいものがあった。それは釘でも打てそうなほど、硬くなったバナナであった。
 少し思案したリクトはトラバース(*7)を選択した。

 体調の回復したルゥとティアは、再び登攀を開始した。
 しかし、先ほどと同じく一気に駆け上がり、またビバークするという循環を繰り返している。これでは就寝時間までに5合目までにも到達できないであろう。
 ルゥの方は、最初から一日で上りきろうなどとは考えていないようだ。



(用語解説)
*3 ピッケル……氷雪地帯を登攀するためのつるはし。つるはしでは情けないので「岳人の魂」という。滑落停止、足場切り、確保支点などに使う。
*4 ビバーク……野宿、露営。一般に、トラブルに遭って予期せぬ野宿をすること=【フォースト・ビバーク】をいう。緊急露営。あらかじめ予定していたビバークは【フォーカスト・ビバーク】Forecast biwak{G}という。
*5 雪崩……傾斜地に積もった雪が大量に崩れ落ちること。もともとは越後の方言で、冬に起こるもの(表層雪崩)を【ほうら】、春に起こるもの(全層雪崩)を【なだれ】という。
*6 アルピニスト……登山家。山登りに対して哲学をもった登山家といった意味で使われる。
*7 トラバース……横断。縦走路にある山などを、その頂上へ行かずに山腹を横ぎること。斜登降。そのルートを【巻き道】という。traverse[横切る]。語源になるラテン語のtransversusは[斜めの]。





08:40:21 | hastur | comments(0) | TrackBacks