July 31, 2007

第6回リアクション E1 S−2


 S−2 天下を取る

 その日、講堂には沢山の学生、助手、教諭が集っていた。今日は《アルカディアにもいるもの》副学部長、テオフラスト・パラケルススの「画期的な」研究発表があると聞かされているのだ。
 そんな聴衆の中に、《鎚と環》のレディティオ・マニウス学部長の弟子、イーラ・ラエリウスもいた。ちなみに、テオフラストとレディティオの仲の悪さは周知の事実だ。そんな中、テオフラストの発表会にイーラがいると言うのは、かなり異質な光景だ。「偵察かな?」「いや、野次要員でしょう」等と言う憶測が回りに広がる。
 当の本人は、師匠同士のいがみ合いとは無関係で、純粋に好奇心からという事みたいだが。
 壇上に純白無垢のローブを纏った人物が現れる。テオフラストだ。
「本日はお集まりいただき、誠に遺憾……じゃなかった、有難く思う。」
 使い慣れてない言葉のせいか、初っ端からつまずく。
「では、早速発表に入るぞ。儂は『完全人型』のホムンクルスを完成させた!」
 ざわめく会場。ホムンクルスとは人間の形をした人工生命だが、今まではボトルに入る程の大きさのものや、歪な形、緑色の肌のものなど、一目でホムンクルスと分かるものしかなかった。
 しかし、テオフラストは『完全人型』と頭につけて言った。
「儂の助手という事で学院で生活していたインザーラ・ティス。あれこそ、儂の作ったホムンクルスじゃ。この事に気付いたものはたったの二人。『完全人型』と冠しても遜色ない出来であろう。」
 胸を張るテオフラスト。
「すっご〜い! 尊敬しちゃう〜☆」
 テオフラストの弟子、ミアが声を上げる。……サクラのつもりだろうか?
「なお、インザーラは先週、機能を停止した。つまり、『完全人型』とした事で、ホムンクルスの寿命が短くなってしまったものと考えられる。せいぜい、一ヶ月から一月半と言ったところかの。」
 なおも続けるテオフラストの説明を、イーラは集中して聞いていた。しかし、どの辺りが『画期的』なのかは、《アルカディアにもいるもの》ではないイーラにはピンと来なかった。
「そして、これだけではないぞ? グレイ、持ってこい。」
 指示を受けたテオフラストの弟子、グレイ・アズロックが大きな箱を運んでくる。大きさは子供が入る程度。
「それでは、開けますよ。」
 グレイが勢いよく箱を開けると、中には一人の子供が入っていた。見た目は10歳くらいだろうか。
 白い肌をしており、髪は透き通るような金髪。アデイ・チューデントを知る者が見たら、よく似ているという印象を持つだろう。インザーラ・ティスを知る者が見たら、これもまたよく似ていると思うだろう。
「こやつは第二号じゃ。名は『カヲル・フタバ』。インザーラよりも小さく作ったので、寿命が違うかも知れん。また、能力も違うかも知れん。そういう訳で、その辺を検証する為に『準学生』として、学院生活を体験させてみる。
 まぁ、これ程の技術を持つ儂じゃ。《アルカディアにもいるもの》の学部長に相応しいと思わんか?」
 そう言っては威張るテオフラスト。
 そこに水を差すものが一人。イーラが挙手している。
「質問、よろしいですか?」
「……なんじゃ、またおぬしか。嫌がらせか?」
 イーラがレディティオの弟子である事を知っているテオフラストは、露骨に顔をしかめた。
「いえ、ただの質問です。なぜパラケルスス師は学院長選に出馬しないんですか?」
「そんなもん、儂の勝手じゃ! ……と言いたい所じゃが、まあいい。物事には順序がある。今回は学部長の椅子を確保し、次回、学院長を狙うつもりじゃ。」
「では、なぜ《アルカディアにもいるもの》からは、学院長選の立候補者がいないのでしょう?」
 しつこく食い下がるイーラに、テオフラストは切れた。
「それこそ、イフオブの奴にでも聞いたらいい事じゃ! それになんだ、その質問は! 儂の研究発表とは全く関係ないわ!! 帰れ!」
 こうして、イーラは講堂からつまみ出された。
 壇上では、カヲルが訳も分からずきょろきょろしている。





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July 19, 2007

第6回リアクション E1 S−1

悪魔のようなあなた (Diaboliquement votre)



 やあやあ! 遠からんものは音にも聞け。近くば寄って眼にも見よ!
 我こそは《アルカディアにもいるもの》副学部長、テオフラスト・パラケルススなり!
 さあ我と思わん者は前に出よ! 人工生命の餌にしてくれようぞ!

 ……なんて口上は述べたりしないか、テオフラストは。


 S−1 イグアナの夜

 月曜の夜、グレイ・アズロックとミアは、師匠であるテオフラスト・パラケルススの部屋にいた。翌日に控えたテオフラストの発表会、その準備を手伝う為だ。
 まぁ、約一名、手伝いになっていない者もいるが。
「ね? 師匠、これ何?」
 物珍しそうに檻の中を覗き込むミア。
「馬鹿もんが。この忙しい時に手を煩わすでない!」
 鉄拳制裁。当然、杖の手で。
「いった〜い……。あれ? この箱は?」
 見慣れない箱が置いてある。大きさはミアが丁度入るくらい。
「ほっほ。それが明日のメインイベントじゃ。……触るでないぞ?」
「ふ〜ん……。ねぇ、聞いていい?」
「なんじゃ?」
「インザーラちゃん、じつは師匠が作った人工生命?」
「……その通りじゃ。なかなか鋭いの。」
 テオフラストが少しだけ感心してみせる。
「えへへ〜ほめられちゃった☆」
 一方、グレイは書類を分類したり、集めたりしている。いつもはテオフラストが適当に散らかしているので、分類するのも一苦労だ。
「先生。結局この箱、どうやって講堂まで持っていくんですか?」
「おぬしの『カゴアシ』でも使えばよかろう。」
 『カゴアシ』とはグレイが作り上げた人工生命だ。知能は低いが、物を運搬するのには重宝する。その姿は籠に足が付いているだけという機能重視のものだ。
 その時、扉を叩く音が聞こえた。
「誰でしょう、こんな時間に……。出てみますね。」
 そう言いながら、扉を開けるグレイ。そして、扉の前にいたものを見て言葉を失う。
「…………! 先生……。」
「なんじゃ。お化けでも見たような顔をして。」
「お化けです。」
「は?」
 それは、そんな二人のやり取りを無視するかのように、部屋の中へ入ってきた。大きな身体のそれは、奇妙な事に足と頭部が見当たらなかった。
「あ〜お化けだ♪」
 のん気にそんな事を言うミア。しかし、何かに引っかかったようだ。
「あれ? これって……。」
「知ってるんですか?」
「うん。コリューンちゃんが言ってた物とそっくりだぁ。」
 先週、コリューンが追っていると言っていた怪異(?)と、特徴がピタリと当てはまる。
「先生、これ、何物なんでしょう?」
 グレイはどうしてよいものやら分からず、師に答えを求める。
「儂もこんなものは知らんわい…………あっ。」
「今『あっ』って言いましたよね? 知ってるんでしょう?」
 問い詰めるグレイ。テオフラストが明確な答えを出さなかったら、小一時間は問い詰めそうな勢いだ。
「い、いや、昔こんなゴーレムを作ったような、作らなかったような……。」
「師匠! はっきりしなさい!」
 何故か強気なミア。
「おーそうじゃ、思い出した。これは儂が昔作った『フレッシュゴーレム』じゃ。これは胴体じゃが、他にも足や目玉もあるぞい。」
 懐かしむように語り始める変人魔術師。
「何で、バラバラなんですか?」
 グレイは当然の疑問をぶつける。
「いや、この方が、収納するのに便利かと思っての。」
 どこにしまうつもりだ。
 そんなツッコミをぐっと飲み込んで、グレイが詰問を続ける。
「それが、なんでここに?」
「まぁ、帰巣本能という奴かのぉ。」
 カラカラと笑うテオフラスト。
 グレイは、どっと疲れた。





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July 07, 2007

第5回リアクション E2 S−2


 S−2 白と黒

 エリクシール・パルヴスの授業は、いつものように行われていた。出席者も然程変化が無い。あるとすれば、レビィ・ジェイクールの姿が見えないところか。先週、レビィはエリクシールに卒業前の下界行きを認めさせようとしたらしい。
 授業は着々と消化されていった。そして、そこに変化をもたらしたのはレイリアの質問だった。
「質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
 いつものエリクシール。
「服と一緒に体を変化させる魔法……そのようなものはありますか?」
 そう、トトに変身していたものが使った魔法だ。レイリアはエリクシールがそれを知っているのではないかと思っていた。
「それは難しいですね。確かに《アルカディアにもいるもの》の魔法には、身体を変化させる魔法がいくつもあります。しかし、身体以外のものを同時に変化させるのは難しいのではないでしょうか。」
「では、あり得ないと……?」
「いえ、可能性はあります。例えば、二つ以上の魔法を同時にかけた。また、新たに開発された魔法と言う事もありえるでしょう。」
 少し間をおき、エリクシールは続けた。
「その服が、体の一部と言う事も考えられますね。それならば、少しは納得できるのではないでしょうか?」
 なるほど、抜けた発想だった。レイリアには思いもよらなかった仮定だ。
「服も含めて、全てが身体だったと……?」
「あくまで、仮定ですよ。」
「そうなると、《アルカディアにもいるもの》の魔法が使えるものならば、誰でも可能となる……。」
「しかし、皮膚を服のように変化させるとなると、かなりの使い手でなければ出来ない事でしょうね。」
 少し前進したような気がした。しかし、確証はどこにもない。
「あと、急いで変身した為、髪の毛を残したようですが?」
 エリクシールに対してカマをかけてみる。情報元はデイン・ガリシュだ。
「どうやら、トトさんに化けていたものの事を言っているようですが……それは魔法の行使とは関係ないのでは?」
「と言いますと?」
「あなたは一日に、自然に抜け落ちる髪の毛の本数を知っていますか?」
「いいえ。」
「では、自然に抜け落ちる髪の毛が、一本も無いと思いますか?」
「いいえ。」
「そういうことです。魔法の行使の際、たまたま抜け落ちただけかも知れませんし、他の者の髪の毛かも知れません。」
 少し納得がいかなかったが、こう言い切られてしまっては話が進まない。仕方なくレイリアは質問を終わらせた。





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