April 25, 2007

第4回リアクション E3 S−1


野望の系列 (Advise and Consent)



 『ゴーレム』と『人工生命』の大きな差は、自律行動の有無じゃ。
 『ゴーレム』は作成者の組み込んだ行動しか基本的には行わない。つまり、命令を与えられない限り、ずっと『物』と言うわけじゃな。
 対して『人工生命』は自分で考え自分で行動する。まぁ、その程度は上から下まで様々じゃが。
 この違いをよく覚えておく様に。
(テオフラスト・パラケルススの講義より)



 S−1 おとし穴

 コリューン・ナツメは寄宿舎に帰ると、奇妙なものを目にした。
 籠に足がついたような変な生き物が歩いているのだ。それは、テクテクととある部屋へと入っていった。
 追いかけてみると、そこはコリューンと同じくテオフラスト・パラケルススの弟子であるグレイ・アズロックと、《怪異学派》でインタ・スタアゲ学部長の弟子ザイクロトル・オークラノスの部屋だった。
「コリューンじゃないか。なんか用? グレイ先輩ならまだいないよ。」
 部屋に入るとブロンドの青年に声をかけられる。彼がザイクロトルだ。コリューンより、7歳上になる。
「あれ、何かと思いまして。」
 先の変な生き物を指差しコリューン。
「ああ、『カゴアシ』っていうらしいぜ。グレイ先輩が作った人工生命さ。」
 人工生命。それはテオフラストの弟子ならではの魔法だった。しかし、まだ修行の浅いコリューンにはこれほどの物は作れない。
「これ、私くらいなら乗れそうですね。……よっと。あ、意外と面白い。」
 カゴアシに乗り、部屋の中をあちこち移動してみる。
 そうこうしているうちに、グレイが部屋に帰ってきた。
「あ、グレイさん。お帰りなさい。これ、面白いですね。」
「そんなに気に入ったんなら、もう一つ作ってあげますよ。」
 グレイは短い銀髪をかき回しながら、淡々と言った。
「本当です? わたしにはまだ、こんなの作れないから嬉しいです。」
 コリューンはその無邪気に喜ぶ。
「先輩、俺にも。」
 からかうように言うのは、ザイクロトル。
「それよりさ、聞いてよ。今度は『腕』の形をした怪異を捕まえちゃったよ。」
 自慢げに話すザイクロトル。最近、寄宿舎に現れるという、体の部品を模した怪異の話だろう。
「それは……凄いですね。」
「そんなにのんびりしてていいのかい? うちの師匠、先輩んとこの師匠に……おっと、口が滑った。」
 慌てて口を塞ぐ。
「インタ・スタアゲ学部長が、先生に? 何を?」
「いや、気にしないでくれ。」
 ザイクロトルは逃げるように学食へと向かっていった。
「何を企んでるんでしょう?」
「さぁ……。」
 そういえば、学院長選挙と学部長選挙が近い。それと寄宿舎の怪異。何か関係があるのだろうか?





08:26:11 | hastur | comments(0) | TrackBacks

April 13, 2007

第4回リアクション E2 S−2


 S−2 事件

 グレイはアデイ・チューデントやインザーラ・ティスと行動を共にする事が多くなった。ホムンクルスである事がばれないよう、フォローする為だ。
 しかし、常に両方と一緒にいる訳ではない。ある時はアデイと、またある時はインザーラと一緒にいる、という感じだ。
「色々と教えてもらえて、有難いですよ。」
 アデイはそんな言葉をよく口にする。
 そんな時、事件はおきた。
 厨房でインザーラと作業をしていた時、インザーラが急に倒れこんだのだ。食堂の方から「ぼえ〜」という変な音が聞こえていたが、それは無視する。
 グレイは『癒し』をかけてみたが、回復する兆しは一向に見られない。
 仕方なく、インザーラを担ぎ上げ、テオフラストの部屋へと連れて行く。

 部屋に着くと、テオフラストがインザーラの診察を始める。
「これは……『寿命』のようじゃな。こんなに早く来るとは思わなんだが。」
 渋い顔をするテオフラスト。
「そんな、なんとかならないんですか?」
「そうじゃな……一先ず、島の研究所に連れて行くぞ。ここではどうしようもない。あと、延命には『マンドラゴラ』が必要じゃ。何とかしたかったら調達して来い。」
 テオフラストが檄を飛ばす。早速、出発の準備に取り掛かっている。
「あの、アデイさんは連れて行かなくてもいいんですか?」
 同じ時期に作られたホムンクルスならば、アデイも危ないのでは。グレイはそういう意味も込めてテオフラストに尋ねた。
「いい。構わん。」
 しかし、テオフラストは短くそう言うだけだった。






08:34:07 | hastur | comments(0) | TrackBacks

April 02, 2007

第4回リアクション E2 S−1


馬上の二人 (Two Rode Together)



 橋を渡り始めた馬は、リズムを乱す事無く駆け続けた。
 馬の主は一言も発する事は無く、馬蹄の鳴らす音だけが響く。
 同乗しているもう一人は、言葉を発する事が出来ない状態だ。
 周期的に訪れる振動。馬の息遣い。
 馬は一回だけ嘶いた。


 S−1 華麗なる陰謀

 グレイ・アズロックは、教諭塔のテオフラスト・パラケルススの部屋を訪れていた。
 部屋は雑然としており、見た事も無い生き物があちらこちらに保管してあった。
「なんじゃ?」
 テオフラストは不機嫌さを隠そうともせず、グレイを睨みつけた。どうやら、実験の最中だったらしい。
「前に言われてた、残りの20点。それについて話そうかと思いまして……。」
 少し気後れしつつも、用件を話し出すグレイ。
「もう分かったのか? ま、聞かせてみせい。」
「私がアデイさんやインザーラさんが人工生命だと思った理由は、先生の技術や性格です。
 先生はアデイさんの身を気にかけてましたし、アデイさんが先生の事を話す時、教えられた事を並び立ててるようだったので。それと……。」
 続けようとするところを、テオフラストが遮った。
「ふむ。問題の内容を取り違えたようじゃな。儂が言いたかったのは、ホムンクルスであるという事以外にまだ明かされてない部分がある、という事じゃ。論拠を補足せよとは言っとらん。」
 そう言うと、グレイの頭を軽く小突いた。杖の手で。
「出直してくるんじゃな。」
「はい……。」
 的外れの解答に辿り着いてしまった事に自嘲しながら、グレイは動物園を出て行った。

 寄宿舎の自分の部屋に帰ると、カゴアシに乗って遊んでいる女の子が目に入る。
「あ、グレイさん。お帰りなさい。これ、面白いですね。」
 乗って遊んでいるのは、妹弟子のコリューン・ナツメだ。10歳と歳は離れているが、彼女もテオフラストの弟子という事で、一筋縄ではいかない人物だろう。
「そんなに気に入ったんなら、もう一つ作ってあげますよ。」
「本当です? わたしにはまだ、こんなの作れないから嬉しいです。」
 グレイはその無邪気に喜ぶ姿を見て、少し気が晴れた。
「先輩、俺にも。」
 からかうように言うのは、同室のザイクロトル・オークラノス。《怪異学派》の学生だ。
「それよりさ、聞いてよ。今度は『腕』の形をした怪異を捕まえちゃったよ。」
 自慢げに話すザイクロトル。最近、寄宿舎に現れるという、体の部品を模した怪異の話だろう。
「それは……凄いですね。」
「そんなにのんびりしてていいのかい? うちの師匠、先輩んとこの師匠に……おっと、口が滑った。」
 慌てて口を塞ぐ。
「インタ・スタアゲ学部長が、先生に? 何を?」
「いや、気にしないでくれ。」
 ザイクロトルは逃げるように学食へと向かっていった。
「何を企んでるんでしょう?」
「さぁ……。」
 そういえば、学院長選挙と学部長選挙が近い。それと寄宿舎の怪異。何か関係があるのだろうか?





08:34:43 | hastur | comments(0) | TrackBacks