March 21, 2007

第4回リアクション E1 S−2


 S−2 招かれざる客

 話題は偽トトの正体は誰か、という方向に向いていった。
「取り合えずあの鳥は、《怪異学派》のインタ・スタアゲ学部長、《契約者》のカッシータ・カリピアーナ学部長、《アルカディアにもいるもの》のニコラウス・ディーラ助手のいずれかの部屋に入っていきました。」
 先週の目撃情報を説明するリクト。
「その三人って……みんな黒に見えちゃいますね。」
 コリューンが恐ろしい事をさらっと口にする。若いっていい。
「教諭塔の調査は何人かで行っているが、特に有力な情報は得られてないな。」
 ロッコは舌打ちを打つ。ヘクサリオンの調査なら、カッシータに対する調査は甘いものになっているだろうが。ヘクサリオンの司令、シーラ・モラリスは、カッシータの実の妹だ。
「しかし、ヒルダやトトに化けたり、鳥に変身したりって……《アルカディア》の十八番じゃない?」
 イーラがその場にいる《アルカディアにもいるもの》の関係者を見回す。
「学部長のイフオブ・サンクッパー師は、蛇にさえ変身できると聞いてるぞ。」
 確かにそれは有名な話だ。
「そう言えば、この場に『死霊術師』はいないな……。」
 ロッコが同調する。
「『死霊術師』と『癒し手』の抗争とでも言いたいのか?」
 《アルカディア》が疑われては堪らんと、ファブレオが反論する。
「残念ながら、そんなに仲が悪い訳じゃないぞ。他流派から見ると分からないかもしれないがな。」
「そうだね。僕が狙われた理由は、他にあるのかも。」
「例えば?」
「ん〜〜僕の才能を妬んでとか。」
 トトの回答に、ひとまずその場は白けた。
「なんにせよ、サンクッパー先生は忙しい人ですし、アリバイが幾らでもあるでしょう? それより、気になる事があるのですが。」
 別のアプローチを見せるリクト。
「レイリアさん、偽トトが鳥に変身したとき、服はどうなりました?」
「あ……! 服も一緒に変化しました。付け加えるならば、あの時の詠唱は聞き覚えの無いものでした。」
 これにより、《アルカディア》説が少し揺らぐ。
「ま、上位魔術師の先生方ともなれば、秘術の一つや二つ、持ってるだろうから、詠唱は当てにならないかな。」
 ロッコが言い返すが、幾分力が無い。
「ねぇ、結局、トト君が狙われた理由は?」
 コリューンはこの点に執着しているようだ。
「確かに、動機から考えるのも悪くないわね。……一つ、トトに恨みがある。二つ、パルヴス師に不利益を与える。三つ、魔術学院全体に恨みがある。これくらい?」
 イーラが推測を並べ立ててみる。
「僕は恨まれるような事はしてないよ?」
 トトが白々しく言うが、
「トック関連の連中なら、邪魔だと思っている奴はいるかもな。」
 ファブレオがすかさず返す。
「それに、犯人が学院の人間とも限らん。」
「どういう意味で?」
「学院の外の人間や……怪異や精霊という可能性も消せないだろう?」
 その声に反応したのは《怪異学派》のリクトだ。
「確かに、ドッペルゲンガーという怪異は人に化けるのが得意とされてます。……って、今の誰ですか?」
 外部犯人説を語った声が、聞き覚えのないものにようやく気づく。慌てて見回すが、声の主らしき人物は見当たらない。
 その時、ずっと黙っていたカロレッタが、初めて口を開く。
「……この中に犯人がいるのかも……。トト君の様子を探りに……。」
 とても細く小さな声だったが、トトの周辺にいる者には何とか聞こえた。そして、その台詞に反応し、お互いの顔を見合わせる。
 しばしの沈黙。
「まぁ、みんなまだ、きちんとした推理も持ち合わせていないんだろう? ここで話し合っても結論は出そうに無いな。そろそろ授業も始まるみたいだし、俺たちはこの辺で失礼するよ。あ、『ヘクサリオン』への協力はいつでも待ってるからな。」
 結局ロッコがまとめに入った。その言葉を残し、ロッコは去って行き、カロレッタはぺこりと軽くお辞儀をして、ロッコの後を追っていった。
 今からここで始まる授業はエリクシール・パルヴスの歴史学だ。トトやレイリア、ファブレオはその場に残るが、他のものは各々別の場所へと移動を開始した。
「あれ? イーラさんは残るの?」
「ああ。パルヴス師に聞きたい事があってな。」
 コリューンの質問に、イーラはそう答えて席に着いた。

 一方、エカテリーナとブラシウスの対戦は終わりを告げていた。17:8でエカテリーナ・クレモアの勝利。獲得経験点は31点。






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March 09, 2007

第4回リアクション E1 S−1


鏡の中にある如く (Sasom i en Spegel)



 この世に「自分」は一人しかいない。
 この一意性が確立されるのならば、どんなに「自分」と姿形、性格が似ている者がいたとしても、それは「偽者」である。
 トト・メタリカ監禁事件もこの法則が当てはめられた。そう、トトが監禁されている期間、学院で活動していたトトは「偽者」なのだ。どんなにそれが似ていたとしても。一意制約を違反しているからだ。
 そして、その者にはいつしか「偽トト」という名称が与えられていた。


 S−1 ウワサの真相

 その教室にはいつもより人が溢れていた。当社比1.5倍だ。
 集まった人の目当てはトト・メタリカ。
 先週、なんとか生きたまま発見されたトトは、《アルカディアにもいるもの》の治療を受け、週が変わった今は教室にその姿を見せている。
 そのトトにべったりと張り付いているのは《怪異学派》助手、エカテリーナ・クレモアだ。
「トト君、もう大丈夫ぅ?」
 を連発している。当のトトはうざったそうにしている。
「あの……クレモア助手。はっきり言って、診察の邪魔なんですが。」
 助けの手を差し伸べた小男は《アルカディアにもいるもの》助手、ブラシウス・ヘルバ。それと、治療を手伝う《アルカディアにもいるもの》学生、レイリア・サルモン。二人ともエリクシール・パルヴスの弟子で、トトの兄弟子・相弟子に当たる。
「なによ! わたしとトト君の愛のさえずりを邪魔する気?」
 すっくと立ち上がるエカテリーナ。長い黒髪がざわざわと逆立っている。
「いえ、ですから診察を……。」
 気圧されるブラシウス。こうして立って並ぶと、ブラシウスの方がエカテリーナを見上げる格好となる。
 その隙にレイリアは、トトの治療にかかった。
「まだ、完全には回復していないみたいですね。ブラシウスさんも言ってましたけど、今週は激しい運動は避けた方がいいみたい。」
「そう? じゃ、トックの方も休もうかな。」
 トトは自分の所属するチーム『アルマ』の事を気にかけているようだ。
「私としては、そのまま寝ていてもらった方が有難いんだがな。」
 冗談めかして言うのは、これもトトの兄弟子に当たるファブレオ・アントニオ。彼は『アルマ』のライバルチーム『ローブル・ルブルム』に所属している。ブラシウスに負けず劣らず小柄な青年だ。
「ま、君の姉さんも調子を落としているみたいだし、別にどっちでも構わないんだがな。それよりも気になる事があるんだが。最近、妙なバズに付きまとわれてるんだ。何か心当たり無いか?」
「さぁ? 僕はこんな状態だし、知る由も無しって感じ?」
 愛想の無い返事を返すトト。
「そのバズを支配しているのが誰か分かればいいんですよね? 野良バズかも知れませんが。」
 いつの間にか傍に寄ってきていて、そう答えるのは《怪異学派》リクト・マイウェル。彼の支配する怪異は残念ながらルゥグァだ。
「じゃ、ライバルチームの偵察って事も考えられるって訳だな。」
 ひとまず納得するファブレオ。
「それで、トトさん。聞きたいことがあるのですが。」
 別の話題、というか、本題に入るリクト。トトは首の動きだけで承諾した。
「なぜ捕まっていたのでしょうか? 誰に捕まったのでしょうか?」
「それは私も聞きたかった事です。」
「わたしも〜。」
 いつの間にか一人増殖していた。最後の声は《アルカディアにもいるもの》のコリューン・ナツメのものだ。若干十歳でテオフラスト・パラケルススに師事している。
「じゃ、順を追って説明しようか。」
 もったいぶってトトは話し始めた。
「2週間前、だったかな? 放課後、レビィと分かれた後、姉さんに旧貯蔵庫に呼び出されたんだ。で、そこでガツンと殴られて、あそこに閉じ込められたって訳。」
「ヒルダが?」
 ファブレオが疑問の声を上げる。
「当然、姉さんがそんなことするわけない。僕も救出された後聞いてみたけど、その時間はトックの練習場に居たって言ってたよ。」
「それ、裏は取れてるんですか?」
 コリューンが更に追求する。気分は探偵だ。
「その事なら大丈夫だぜ。『アルマ』のメンバーが証言してくれた。」
 またもや別の方向から声がした。そちらを向くと、蜂蜜色の髪を逆立てた美男子と、同じく蜂蜜色の癖のある長い髪の少女がいた。二人とも、腕には目立つブレスレットを巻いている。
 彼らは風紀委員会『ヘクサリオン』のメンバーだ。男の方が《怪異学派》のロッコ・アウアア。少女の方が《契約者》のカロレッタ・アウアア。
「ま、そいつはヒルダに化けた何者かだろうよ。さ、話を続けてくれ。カロレッタ、ちゃんとメモ取れよ。」
 その場を仕切るようにロッコが口を出す。カロレッタの方はこくんと頷きメモの用意を始めた。
「……まぁいいか。で、僕が気を失ってる間に口を塞がれ、手と足を縛られたんだ。これじゃ、まともには魔法が使えない。一応、声が通りやすい夜を狙ってうめき声くらいは出したんだけどね。」
 リクトがザイクロトル・オークラノスに聞いた、旧貯蔵庫から聞こえる声というのはこの事だろう。
「その甲斐あって、なんとか助けられたんだけど……みんな、気づくの遅いよ。」
 今度は恨み節だ。
「僕がエリクシール先生の弟子じゃなかったら、今頃衰弱死してたね。」
「そうですね……口と手の自由が奪われても、低度の癒しは使えたみたいですし。」
 レイリアが、その点には同意する。
「だが、トトが監禁されていた期間にも、学院にはトトがいた、と。」
 救出が遅れたという件は無視して、ロッコが話を進める。
「私でさえも見破れないくらい、完璧な変装だったという訳か。」
 付き合いの長いファブレオが漏らす。
「どうしてそいつが偽者で、ここにいるのが本物だって言えるんだ?」
 またまたまたまた、人が増えていた。疑問を発したのは《鎚と輪》のイーラ・ラエリウス。レディティオ・マニウス学部長の愛弟子だ。
「その点なら説明できるぜ。その偽トトがレビィとレイリアの目の前で、鳥に変身して逃げ出したんだ。」
 ロッコがそう言って、イーラにニヤリと笑いかける。こいつとは気が合いそうに無いな、とイーラは思ったが、ロッコはお構い無しに言葉を続けた。
「その鳥は俺たちも追いかけたんだが……あの時はカロレッタはいなかったな?」
 ロッコの妹は、また無言で頷いた。熊のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。




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