April 13, 2006

第7回リアクション E1 S−2


 S−2 名付けの親

 わたしたち4人はカードを片づけて席に着いた。 まず最初にわたしが口を開いた。
 わたしはこの二人を捜しにここに入ってきたのですが……どうして入れたのでしょう?
 それは、あの奇妙な生き物の所為ではないでしょうか。あの鼻で歩く生き物……何匹か館の中に入り込んでいるのをクラヤミが捕まえていたようですが……あれはそんなに危険な生き物なのですか?
 リンプは逆にわたしに聞き返した。その質問にはジェイルが代わりに答えた。
 あれはナゾベームってんだ。木ノ実なんかを食べる大人しい動物だよ。
 そうなのですか? この館は避難所としても機能するように、その人にとっての危機が訪れている時にだけ扉が開くようになっているのですが。
 あ、そういうことですか……いや、わたし、ネズミとかそういうの大の苦手でして……こういうのも危機になるんですかね?
 さぁ……入って来れたということは、そうなんでしょう。
 他の三人は少し呆れたという様子だった。

 次に話題はジェイルの頭の上にいる、青い鳥の事に移っていた。
 おじさん、この鳥、どう思う?
 ジェイルはわたしに問いかけてきた。
 どうって……綺麗な小鳥ですが。
 私が答えると、ジェイルは、やっぱり自分だけ……?と、小さな声で呟いていた。
 なぁ、この鳥、一体なんなんだよ?
 今度はリンプに聞いている。
 この鳥は、言わば数合わせですね。
 館の生き物に対する維持の魔法は、扉を潜ってきた数を数え、それに合わせた人数分働くようになってます。
 最初に私の両親とクラヤミが入りました。館は三人分の維持の魔法を働かせます。
 ところが途中で母が死にました。扉を潜っていないので館はまだ三人と認識したままです。この時は替わりに私が生まれていたので丁度良かったのです。
 だけど次に父が死にました。この時、数がずれたのです。一人分余分に働き続けた魔法は、一匹の鳥を造り上げてしまいました。
 言い換えるとこの鳥は、私の父の生まれ変わりということになりますね。
 リンプの長い説明が終わっても、ジェイルだけはどこかまだ納得していないようだった。それが何に引っかかっているかまでは、私には分からなかった。
 話はいつのまにか名前についてのものになっていた。
 あたい昔、自分の名前が嫌いだった。「ジェイリーア」って、ノースウィンド家の初代……王様から爵位を賜った女性なんだ。だから、暗にこの人みたいな立派な当主になりなさいって言われてるみたいで……。
 ジェイルはそう披瀝した。名前には親からなんらかの託す気持ちが込められているのだろう。時にはそれが重圧に変わるものなのかも知れない。
 しかしそんなジェイルの告白に対して、リンプが口を出した。
 嫌いになるような名前ではありませんよ。今まで黙っていましたが、実は私の母の名前がジェイリーアなのです。そして父の名前がルアフォート。
 ええ!?
 ルアとジェイルは同時に驚きの声を挙げた。
 私はずっと名前と言うのは軽々しく使わないものだと思ってました。だから両親の名前も、両親から貰った本当の名前も隠していたのです。
 そして少し間を置いて、ジェイルの頭上の鳥を見ながら、その鳥があなたになつくのは名前のせいかも知れませんよ、と言った。
 ……そうだったんだ。あたいもさ、上手く言えないけど、最近になって名前ってもっといろんな意味を含んでるんじゃないかって考えるんだ。だから、外に出て今までの事にケリをつけたいんだ。
 ジェイルはそう気持ちを明らかにした。そして、何か意味が込められているような視線を、ルアの方に送った。
 じゃあ、リンプの本当の名前って何なの?
 ルアは少し遠慮がちに尋ねた。
 クォリネです。
 彼女は一言そう答える。私はその言葉の意味を思い出していた。そして彼女の両親の託す気持ちが何となく分かっていた。






08:25:49 | hastur | comments(0) | TrackBacks