December 18, 2006

第3回リアクション E1 S−1


真実の瞬間 (Il Momento della Vérità)



 学院長選、学部長選のダブル選挙を1ヶ月半先に控えた学院内では、様々な不穏な動きが散見されるようになって来た。学院内を破壊して回る謎の人物、ティモル島で不可解な行動を取る《鎚と輪》副学部長、寄宿舎内をさ迷う脚や目玉、そしてそれらを保管する《怪異学派》の学部長、ペンタ部部長交代劇……。
 そんな中、《アルカディアにもいるもの》でも今までにない事柄が起きている。同時に3人もの助手が下界から帰還し、その3人ともが秘密めいた行動を見せている。
 果たして真実は何処にあるのだろうか?


 S−1 彼女と彼

「では、課題をやってきたものは?」
 教室の中に、テオフラスト・パラケルスス副学部長のしわがれた声が響く。
 その声に応じたのは、グレイ・アズロックだった。
「はい、ちゃんと捕らえてきました。」
 グレイがそう言うと、トックもどきが一杯に入った籠が歩いてきた。比喩ではなく、籠が歩いてきたのだ。
「ほぉ、なかなかいいものを作ったの。」
 テオフラストが素直に弟子を褒める。
 グレイが作ったのは、トックもどき運搬用の「カゴアシ(仮称)」だった。その名の通り、籠に足が生えているだけの人工生命だったが、限定的には役に立つ代物だった。
「うむ。評価に値するな。つけておくぞ。」
 そう言いながら、小さな紙に何かを書き記すテオフラスト。もしかすると、グレイの卒業が早くなったのかもしれない。
 一方、授業に参加する事は参加しているが、課題をこなしてこなかったレビィ・ジェイクールは、その様子を黙って見ている事しか出来なかった。

 授業の終了後、グレイとレビィはテオフラストに詰め寄った。
「パラケルスス師。アデイ助手とインザーラ助手について、お話があるのですが。」
 テオフラストはその台詞に、少しだけ眉を動かした。
「そうか……気づいたかの。ここではちとまずい。二人とも後で儂の部屋に来るように。」
 やはり、あの二人には何か秘密がある。確信めいたものを得、グレイとレビィは教諭塔に向かった。

 テオフラストの部屋はちょっとした動物園のようだった。部屋の主はどっかりと椅子に座っており、その傍らにはアデイ・チューデント助手が立っていた。
「さて、どのような結論に達したか、聞かせてもらおうかの。」
 先に口を開いたのはグレイだった。
「あの、アデイさんとインザーラさんって、先生の作った人工生命ではないですか?」
「いかにも! どうじゃ、良い出来じゃろう? しかし、ばれるのが早かったのぉ……。」
 テオフラストは杖の先の手で、頭をポリポリ掻きながらそう披瀝した。
「しかしながら、その論拠は?」
 その問いにはレビィが答えた。
「過去の経歴の不明瞭な事。下界の事を話さない事。この二点では不十分でしょうか?」
「むぅ。流石に経歴までは偽造出来んかったわい。下界の話は……適当に教えておけばよかったかの。」
「……下界の事は教えてもらってなかったので、何も喋れませんでしたよ。」
 アデイが不満をこぼす。
「じゃが、おぬしらの推理は80点というところじゃの。」
 テオフラストが不気味な笑みを浮かべる。
「では、おぬしらにやってもらいたい事がある。アデイとインザーラの正体をばれないように、守ってくれ。儂はこの、学院始まって以来初の完全人型のホムンクルス(人型の人工生命)作製理論を発表し学部長選に挑むつもりじゃ。その為には普通の人間と混ざってもばれない精度のホムンクルスという事を示せねばならん。
 その為には後二週間は隠し通さねばならん。
 もちろん、残りの20点をおぬしらで探し求めても構わんぞ。」





08:42:45 | hastur | comments(0) | TrackBacks