January 25, 2006
第6回リアクション E1 S−3
S−3 新品の入館者
それから数日が経って、僕達は食堂で懐かしいものと対面した。それは例のウサギ型のケーキだった。あの時と同じようにカードも添えられてあり、歓迎用のケーキです、と書かれてあった。
そう言えば先月、ケーキの生地をこしらえてたっけ。
ジェイルは思い出したように、そう漏らした。
と言うことは、誰かまたこの館に入ってきてるのかな?
僕がそう言ったところで入口のほうからどたばたと、大きな音がした。僕らは顔を見合わせて、そっちのほうへ行ってみた。
すると見慣れない男の人がホールの反対側、館の入口の扉の前に立っていた。なぜか数匹のナゾベームも入り込んでいるようだった。
男の人は唾の広い帽子を被り、ローブを着て、リュートを背負っていた。
しばらく眺め合っていると、向こうのほうから話し始めた。
ルアフォートとジェイリーアですね!?
相手はホールの端から端まで届くような大声を上げた。
僕達は少し驚いた。
どうして僕達の名前を? あなたは?
あなた達の弟達に頼まれて、捜しに来たんです。わたしはラグナセカ・タイタヒルと言います。あ、ラグでいいですよ。
捜しに来た? 僕達がここに閉じ込められていることを知っている人がいたんだ。
さすがにこの距離だと話しづらいのだろう、ラグさんはホールの反対側、柱時計のほうへ歩いた。その間、ジェイルは僕に耳打ちした。
なあ、あの人のためのケーキなのかなぁ?
多分……。
そこまで話したところでラグさんは目の前まで来た。
とりあえずさ、こっち来てケーキ食べなよ。
ジェイルは唐突にそう言って奥へ案内した。ラグさんには訳が分からないようだったが、とりあえず着いていった。
台所を通り抜け、食堂に入った。ラグさんは文句も言わず着いてきていた。
ほら、食いなよ。おじさんのだよ。
ジェイルはそう言って促した。少しでも残したら、怒りそうな気配だった。
ラグさんは恐る恐るケーキに手をつけた。
ラグさんがケーキを食べる間、僕達は軽く談笑をしていた。
ラグさん、それリュートでしょ? もしかして吟遊詩人なの?
まぁ、そんなところですよ、ルアフォート。
あ、ルアでいいよ。
はい、お茶だよ。あたいはジェイルでいいよ。
分かりました。ルアとジェイルですね。
あ、クラヤミも来たみたい。
クラヤミ?
ほら、そこの黒猫。クラヤミっていって、この館にずっといるんだって。
ずっとって……この館が出来たの二百年以上前でしたよね?
お茶が終わるとそれぞれの情報を整理することになった。僕らははまず、この館について話した。
次にラグさんは僕達に外の様子を教えた。クォリネはだいぶ復興が進んでいる事や、セリアがすぐ側で兄の帰りを待っている事、ウォレンも先々月までクォリネに来ていたことなどを話した。
家族が自分たちのことを心配していることを知り、僕は複雑な気持ちだった。早くここから出たいという意志が少し強くなった。
最後にラグさんは館から出る方法を用意してここに来たわけではないことを白状した。そう、出る方法も知らず、のこのこと入ってきてしまったのだ。
(次回「ある過去に関する物語」へ続く……)
指針NO.
E05:館を出る方法を考える。
E07:出ることを諦めて、ここで生活する。
E99:その他のことをする。
08:29:51 |
hastur |
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January 19, 2006
第6回リアクション E1 S−2
S−2 名前の由来
僕達は<誰でもない>さんを元気づけに行った。これは僕もジェイルも気に掛けていたことだった。 僕達がホールまで降りると例の音楽が聞こえた。今日は気分転換にアコーディオンを弾いているようだった。もちろんいつものようにパイプをくわえたまま演奏しているのだろう。僕はそこまで想像して、柱時計の裏の階段を降りていった。
地下の部屋は紫煙で満ちていた。<誰でもない>さんは僕達に気づくと音楽を徐々に緩めていって、そして音を止めた。
こんにちは。今日は?
うん、特に用事はないけど……お話でもしようと思って。
じゃ、お茶でも入れましょうか。あぁ、お酒のほうがいいですか?
ううん、お茶で。
ジェイルはちょっと我慢しているみたいだった。
ねぇ、僕、<誰でもない>さんの名前、考えてきたんだけど。「リンプ・オルフォ」って言うの、どうかな。
いい名前ですね。なんていう意味ですか?
「きれいな目」っていう意味なんだ。外の色々なキレイなものを見てほしいから……どう、使ってくれる?
では、使わせてもらいます。今までは名前を使う相手もいなかったですから。
その台詞を聞いて、名前は相手がいないと意味をなさないことに気づいた。名前本来の機能、その本質を知る機会なんか、こんなところでなくては一生ないだろう。
だからさ、がんばって一緒に外に行こうよ。外の陽光を感じるのって、すっごく気持ち良いんだから、ね。
……そのためにはあの魔法を完成させなくては。
そう言ってリンプさんはパイプを深く吸った。
08:22:07 |
hastur |
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January 11, 2006
第6回リアクション E1 S−1
ある告白に関する物語・A
告白する勇気の持てる魔法を、僕に……。
S−1 境界線上の台詞
なんだかよく分からないけど、僕は吹っ切れていた。きっかけはなんでも良かった。今日の朝御飯がいつもより美味しかったとか、気持ち良く空を飛べる夢を見たとか、とにかくなんでも良かった。
僕はポジティブに、前向きに考えようと決めた。これ以上悪くはならない。
ちなみに今日見た夢は巨大なキャロットケーキを無理矢理食べさせられそうになる夢だった。でも今の僕には関係なかった。
僕はジェイルと向き合うため、彼女のいる部屋へ向かった。
僕は緑色の扉の前に立った。ちょっとした緊張で扉の色を間違えかけた。
静かにノックする。
僕だけど、ちょっといい?
中からは、開いてるよ、どうぞ、と言う声が返ってきた。
ジェイルは青い鳥の世話をしているところだった。手に餌を乗せ、頭の上の鳥にあげていた。
ねぇ、ジェイル。外に出てもまた会ってくれる? ジェイルは突然の問いかけにちょっと驚いたようだった。
なに言ってんだよ。当然だろ。同じ学院行ってんだしさ。
うん、そうだね。あの、それで……その、出来れば、友達からでいいから、僕と付き合ってくれると嬉しいなぁ……。いや、そういう人いるんだったら気にしないで。
多少しどろもどろだった。でも僕の言いたかった台詞は言えた。僕はバクバクいう心臓を押さえて彼女の返事を待った。
あ…あのさぁ。あたいみたいなのでいいの? あたい女らしくないし、優しくない奴だし、ルアにはもっと……。
なに言ってんだよ! 僕はそのまんまのジェイルが好きなんだよ。
僕は思わずジェイルの言葉を遮った。いつのまにか僕は彼女の目をしっかりと見据えて、喋っていた。
そして……。
次の瞬間、彼女は僕に抱きついていた。
ありがとう。
生まれて初めて女の子に抱きつかれた僕は、どうしていいか分からずおろおろしていた。
ありがとう。
ジェイルはその一言を繰り返していた。
ありがとう。そう言ってくれると本当に嬉しい。あたいもルアの事、好きだよ。
……え?
ルアの気持ちを確かめるのが恐かった。変なこと聞いて、今までのように仲良く出来なくなるのが恐かった。でもルアの方から……ありがとう。
僕は魔法に掛けられているような気分だった。これ以上悪くはならない。その通りだったのかも知れない。だけど最後に一言、釘を刺された。
けどさ、あたいの料理、ちゃんと残さず食べてな。
08:23:45 |
hastur |
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