May 11, 2005
第3回リアクション E2 S−2
S−2 天井裏の星空
食事が終わると、あたいはクラヤミとルアと一緒に館の中を歩き回り始めた。
あたいら人間が入ることが出来たということは、ここはエルフの避難所として以外の意味があるのかもしれない。そう思ったからだ。
まず、柱時計の前に来た。クラヤミは特に興味を示さず……というか、早くここから離れたがっているようにホールの中央へ動いた。あたいはそのことを頭に留めた。
その他の一階の部屋では、何も反応を得られなかった。
二階の各部屋でも同じだった。ただぐるぐると部屋を回って見ているだけという感じだった。
……上、行ってみよーぜ。
あたいは三階に行くことをルアに提案した。ルアもこのままでは埒があかないと感じていたらしく、うん、行こう、と返事を返した。
クラヤミは特に何も返事をしなかった。よく考えれば、クラヤミだけで三階以上に行くことは不可能なのだ。何か魔法か何かがあれば別だけど……。
あたいは螺旋階段の終点、二階の天井の戸を押し上げた。ぎぃ、と音を立てて戸は開き、最初に視界に入ったのは本だった。
少し階段を上がり、三階を見回すとどこを見ても本があった。そこは図書室のようだった。本棚と本が所狭しと並んでいた。
本の鑑定はルアに任せた。彼は図書館学もかじっているからだ。
あたいもそこらへんの本を手当たり次第手にとって読んで見た。でも大部分の本は古い文体で書かれていて、読みづらかった。だから出来るだけ挿絵のある本を眺めていた。
暫くするとルアが調べた結果を告げた。
これ、一番新しい本で250年以上も前のものだよ。古い本はエルフの言葉で書かれているものが多くて何が書いてあるのか分からない。……それと、面白いものを見つけたよ。
そう言って木の装丁の本を一冊取り出した。開いたページには人型の何かの絵が描かれていた。
それはドワーフをもっと背を高くして醜くしたものに見えた。獣人から高貴さをとったものにも見えた。
そしてその絵に添えられている説明に、人間、と書かれていた。
これが人間?
ここにある人間についての記述は、全部こんな感じだったよ。
ルアはそう付け加えた。
もし<誰でもない>がこれらの本でしか人間を知らないとしたら、あたいらを人間とは思わないだろう。
それと、この館に関する記録も少しあった。館の中へ送られたエルフは二人の男女で、一匹の猫も一緒だった、と書かれていた。
図書室の深奥には、さらに上へ上がるための梯子があった。
あたいはルアと相談し、四階へ上がってみることにした。
梯子を登り、天井の戸を押し開けると、その先は暗かった。今までの階はどこでも燭台が壁にあって、明かりが保たれていたけど、この上にはそういったものが無いようだった。
ルアも上がってきた。あたいらは目が慣れるまでそこでじっとしていた。あたいはちょっと恐くなって、思わずルアの肘を手に取った。
暫くするとルアが何かに気づいたらしく、あっ、と声を上げた。
ほら、天井、見てよ。
あたいは言われるまま上へ視線を移した。
そこにはいくつもの輝点がちりばめられていた。それが星を表しているということはすぐに分かった。
それは例え疑似とはいえ、三カ月振りの星空だった。あたいらは少しの間、そのなつかしい風景に浸っていた。
00:10:11 |
hastur |
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