November 14, 2005
第5回リアクション E2 S−2
S−2 明日の風景
次の日、わたしはセリアと共に白い館へ向かった。とりあえず様子をこの目で見ておきたかったのだ。 見ればセリアの言った通り、どこも変化はないように見受けられた。試しに扉を開けようとしてみたが、やはり以前と同じくびくともしなかった。
娘さんはわたしを館の中へ導く方法があり、準備も済んでいると言っていたので、後日その手で行けばいいですかねということにして、今日の所は帰ることにした。
そして帰路につこうかというとき、背後の藪から何かががさがさと姿を現した。
な、なんですか!?
セリアが警戒し腰の剣に手を添える。
しかし現れたのは狩人姿の村長さんだった。
よぉ。何か進展はあったか?
軽く声を掛けてくる村長さんに否の返事を返し、今度はこちらから聞き返した。
村長さんこそその格好でどうしたんです?
ん? 言ってなかったっけ? オレの本職は狩人なんだよ。村の中のことはだいぶ片づいてきたんでな、久しぶりに狩りに出てみたんだ。面白いもんが獲れたぜ。
そう言って村長さんは妙なものを取り出した。それは一見蛙のようだった。いや、本当にただの蛙のように見えた。
これは普通の蛙じゃなくてな、幻の食材と言われるほどのもんなんだ。
これがどんな料理に化けるのか、わたしには想像がつかなかった。
村に戻れば何やら村人が集まって話し合いがもたれていた。集まった村人というのがクォリネ観光協会の人々らしく、今後の方針についての会議のようだった。
やはり春に起きた災害のせいで、観光客の量ががた落ちになっているようだった。いくら建物が直っても、これでは食っていけなくなる。そこで王国全土にアピールできる何かが必要だ、というところで会議は止まっているようだった。
星がよく見えると言うところは以前通りなのだが、珍獣の森は壊滅状態だった。これでは客が寄りつかないのかも知れない。
しかし……こんな重要な会議に村長が欠席でいいのだろうか?村長さんは村長さんなりで何か妙案でもあるのだろうか?
かといってわたしにもパッとはいいアイディアが浮かぶ訳でもなかった。何げなくローブのポケットに手をやる。ひんやりとする物体が手に当たった。
そこには先月海岸で拾った金属板があった。その表面には何か彫ってあるようで、親指でなぞると引っ掛かりを感じることができる。なんとなく捨てられずここまでもって来てしまったが、何か意味があるのかわたしには分からなかった。
(次回「ある告白に関する物語」へ続く……)
指針NO.
E05:館と関わる。
E06:リュミエールと関わる。
E07:観光事業と関わる。
E08:ウォレンと関わる。
E09:謎の食材と関わる。
E10:謎の金属板と関わる。
E99:その他のことをする。
08:45:14 |
hastur |
comments(0) |
TrackBacks
November 12, 2005
第5回リアクション E2 S−1
ある愛に関する物語・B
少し寝苦しいときには楽しかったときのことを思い浮かべればいい。楽しい時間はあっという間に過ぎていってしまうから気づいたときには夢の中になっているだろう。
だから別に羊を用意しなくてもいい。あれはあれでやかましいものだから。
もう少しすれば夢の続きを通り抜けられる。後は自分の力で……。
S−1 旅団の帰還
わたしたちは大八車と共にクォリネの村まで帰ってきた。車の中身は大量の干物であった。
長旅のせいで疲れきってはいたが、とりあえず村が見えたのでほっとする。わたしは一仕事終えた達成感にやっと浸れるようになった。
道中は虎の子の村の財産をはたいて護衛を雇っていたため、なんとか無事であった。もしこの干物を奪われるようなことでもあれば、クォリネはどうなっていたか、とても想像できない。それほど重要な輸送だった。
日はまだ高く、村に近づくにつれ空は開け、日差しが強くなっていた。わたしは愛用の麦藁帽子を傾けて被り、日光から目を守った。
村の様子はといえば、私たちが出発する前とは見違えていた。多少継ぎ接ぎだらけな所はあるが、建物は揃っていたし、人の数も前とは比べものにならないくらい増えていた。
みんなよくやってくれたな。
わたしの横で村長さんが呟く。
ほら、もう少しですよ。
わたしは努めて明るくみんなにそう声を掛けた。
おかえりなさい。
そう出迎えてくれたのはセリアだった。わたしたちの留守中を守ってくれていたのは彼だった。
他の村と同様にクォリネにも自警団というものはある。とは言えほとんどのものが兼任で、しかも戦闘について訓練を受けたものは皆無だった。その点考えるとセリアが残って村を守ってくれていたのは大きかった。
セリアは荷物を運び入れるのを手伝うと、留守中の出来事を教えてくれた。とはいっても、報告することはほとんどないようだった。
あれから白い館の方も特に変化はなく、村にも特に事件らしい事件というのはなかったそうだ。あったことといえば、またリュミエールのほうで小さな地震があったことくらいだった。
それを聞いてわたしは一方でほっとし、また一方では少し残念がった。
それからもう一つ、わたしはセリアに質問した。
ウォレンはまだ戻ってきてませんか?
ええ、まだですね。
ウォレンはメイシャに向かうわたしたちと一緒に旅し、王都で別れたのだった。いまだクォリネに戻ってきていないとは……何かあったのだろうか?
わたしはそんな疑問を頭に巡らせながら、村長さんの小屋へ入った。
奥さんや娘さんを含め、疲れきっていたわたしたちはひとまず小屋で休むことにした。さすがにこの長旅は女性や子供にはきつかったようで、二人とも最後のほうは大八車の上で休んでいることが多かった。しかし奥さんの気遣いや娘さんの無邪気さがわたしたちの疲れをいくらか癒していたのも事実だった。
10:36:04 |
hastur |
comments(0) |
TrackBacks