July 10, 2005

第4回リアクション D1 S−3


 S−3 Misfortunes never come singly.

 リュミエールへ戻ったエミル達を待ち受けていたのは、第二の魔法陣が発見されたという報告であった。
 少なからず危惧されていたことではあるが、事態は悪い方向へ向かっているということを、誰もが感じずにはいられなかった。
 エミル達が出発して暫くの後、リュミエールでは軽い地震が起き、やはり前回と同様、小さな集落で魔法陣が発見されたという情報が入ってきたと、騎士長は説明した。この調査の為の準備に今は時間と人員を割いているらしい。
 その所為もあり、学者達の検討会も中断され、然したる成果も上げることは出来なかったという。加えて、王都からの調査結果も芳しくなかった。やはりエルフの、そしてたった二人の魔法使いにしか理解出来ぬ特殊な術であると言うことであろう。

 今の所一番気になる人物であるヴァンデミは、王都での用事を済ましリュミエールへ戻ってきているという。しかし、所用という理由をつけ、姿を眩ませているらしい。いつものようにエークもそれに付き随っているようだ。
 さすがに現時点では魔法陣調査が先決で、調査隊をヴァンデミ探索に動かす訳にもいかず、歯噛みすることしか出来ないエミルであった。




指針NO.

D01:ヴァンデミ/エークを探す。
D02:ヴァンデミ/エークについて調べる。
D03:第二の魔法陣を調べる。
D04:報告/調査の為、王都へ戻る。
D05:らぶらぶモードに突入する。
D99:その他のことをする。





01:44:49 | hastur | comments(0) | TrackBacks

July 09, 2005

第4回リアクション D1 S−2


 S−2 Gordian knot

 その老魔法使い、イルキスは嗄れた声で言った。
「待っておったぞ。」
 全てを予見していたかのように述べる。
 簡素な小屋に一人で暮らしているらしい。小さな机に来訪者をつかせた。
 老人の学者と比べると実年齢はもちろん、外見も彼のほうが老けていた。しかし不思議と脆弱さは感じさせない。
 エミルは簡単に挨拶を済ませ、ミリシアがセイリアから預かった紹介状を差し出した。
「ふむ……。して何が聞きたい?」
 今回の事件のいきさつを簡単に説明し、専門的な魔法陣に関する話は学者が受け持った。そうしてエミルは本題に入る。
「この魔法陣が四つ全て完成したとき、何が起こるのでしょうか?」
 イルキスは少し眉を動かし、簡単に答えを返す。
「破滅じゃよ。」
 しばし、沈黙が流れる。説明不足と感じたのか、老人は付け足すように言葉を続けた。
「その魔法陣は大昔、儂やヴァンデミが考えたものじゃ。人間との戦で追いつめられた我々の切り札じゃった。
「当時は他にもいろんな魔法兵器が開発されておった。この魔法陣もそうじゃし、白い館という研究所も建立された。じゃがそれらも昔の話じゃ。実際には使われる前に戦は終わっておった。
「魔法陣には力を呼び寄せる効果がある。その余波で国は滅ぶじゃろうて。」
 淀みなく続けるその口調にはどこか浮き世離れした感覚があった。リアリティに欠けていた。
 エミルは他にも質問を用意していたが、この話を聞いてそれが無意味になった気がした。そして別の疑問が沸いてきた。
「あなた様とヴァンデミ氏はどのような関係なのですか?」
「昔の戦友と言ったところかの。200年来の付き合いじゃ。」
 俄には信じられなかった。外見からいってこの老人とヴァンデミが同世代とは……。
「それでヴァンデミ氏も魔法が使えるのですか?」
「ああ使えるとも。その魔法陣は儂とヴァンデミしか組むことは出来ん。」
 エミルは案内人の少年の方を向く。彼もそんなことは初耳らしく、首を振って答える。
「じゃがな、一つ言っておこう。奴は魔法を使えるが、魔法使いではない。魔法使いというのは全ての自然に対し完璧な知識を有し、対話出来る者のことじゃ。奴は自然を利用しているに過ぎん。」
 そう言うと懐から一本の紐を取り出し、エミルの方へ放った。それは真中で複雑に固く結ばれていた。
「今日はもう遅い。その辺で寝ると良い。それと一つ謎かけじゃ。その紐を明日の朝までに分離させてみよ。」

 その晩、エミル達は紐を中心にしてあれこれと考え込んでいた。紐は思いのほか複雑に結ばれており、簡単には解くことが出来なかった。数刻も経たないうちに諦観が漂い、結局そのまま寝入ってしまった。
 そのまま夜が明け、前夜と変わらぬ姿の紐を老人に見せる羽目となった。イルキスはそれを確認すると滔々と語り始める。
「やはり分離することは出来なんだか。実はな、以前同じ謎かけをヴァンデミに吹っかけたことがある。奴はあっという間にこの紐を二つに分けた。剣で両断してな。
「そういう奴なのじゃよ。もちろんじっくり時間をかければそのうち紐は解くことが出来るじゃろう。……まぁ、どちらかの方法が正解という訳でもないがな。」





08:37:25 | hastur | comments(0) | TrackBacks

July 08, 2005

第4回リアクション D1 S−1


 Prophet of the Enchanted Wood


 エルフにとって樹木は、家族であり神であり、時に戦友となる。それほど密接であり、必要不可欠なものである。フラニス王国の人間にとってベルトリス川の存在が重要視されるのと同様に。
 ここに年古りた樹々の集いし場所がある。その一本一本が王国の歴史の数倍を生き長らえている。根の太さは大人二人分を優に超え、大地の全てを滋養としているかのようである。
 その古木の森にて彼は待っていた。
 彼はイルキスという。齢二百二十になる、最長寿のエルフだ。エルフの平均寿命が百二十歳であることを考えると、この年齢がいかに抜きんでていることかが分かる。
 周りの樹々と同じように多くの皺が刻まれている顔、そこに薄く開かれる目蓋。微かに外界と触れている眼球は灰色で、何を感知しているのかは分からない……。


 S−1 In the Forest

 季節は既に盛夏となっていた。それでも風通しの良い高床式住居の中では、いくらか涼しさを感じられた。
 王都から駆けつけた調査隊の面々は、エルフ族の代表であるセイリアに貸し与えられたこの手の住居に滞在していた。リュミエールでの暮らしも二カ月が過ぎ、隊員達もそろそろ慣れを覚え始めている。
 騎士であるファング・ディスマイルもそんな隊員の一人だ。彼にも顔馴染みのエルフが二三人、出来ていた。彼は地元の住人との交流で様々なものを手に入れていた。例えば今まであやふやに感じ取っていた他種族の価値観だとか、あるいは今までに見知らなかった技術であったりした。
 更にはあくまで口切りの部分ではあるが、森での戦い方にも触れていた。戦うことが好きなファングが熱心に聞き入っていたことは言うまでもない。その熱心さには護りたいと思える対象があるということも大きく作用しているようだった。

 魔法陣の発見された集落からはエミル・キルライナ公爵率いる分隊がリュミエールに戻ってきている。今は次の指示を隊の責任者たる公爵に仰いでいるという状態である。
 エミルは戻るとミリシア・ラインテール伯爵と騎士長を集め、各々の先月の進捗を擦り合わせた。多少疲れの見て取れるエミルであったが、責任感が後を押しているのであろう、休む間もなく最良と思われる判断を下した。
 そして彼女の口から発せられた次なる行動は、以下のようなものであった。
「私は先日ラインテール伯爵の聞いたというエルフの魔法使いの所へ赴きます。同行者は伯爵と、護衛役にファング・ディスマイルともう一人衛兵。それと神学の教授を一人、同行させていただきます。
「残りの者はここに留まり、今回の事件について協議していただきます。先日ファング殿が魔法陣などについて王都へ問い合わせているということですので、その結果報告の到着もあると思います。それも合わせて協議願います。」
 板に水を流すようにそう告げると、残りの二人を見回す。異議のないことを確かめると、会議を終わらせた。
「あまり無理をなさらないでくださいね。」
 去り際ミリシアは優しく気遣いの言葉をかける。
「うん、ありがとう。」
 そういいながらも、爵位の重さを痛感しだしたエミルであった。

 翌朝、リュミエールのやや外れにある広場に調査隊の全隊員が集められた。眠たい目を擦りながら……という輩は一人も居ない。皆、使命感を内に秘め、王都を出発した頃のモチベーションは少しも欠落していないようだった。
 点呼が終わり全員が揃ったことを確認すると、騎士長が一歩前へ出て声を張り上げた。
「今日からの行動指針を発表する。まず隊長と副隊長はエルフの魔法使いと面会するため、森の奥へと出発する。同行者は後ほど本人に伝える。
「残りの者は現在までの情報を基に今回の事件について検討せよ。以上だ。質問は?」
 すぐに手が挙がる。ファングの右腕だった。
「森へ入るのでしたら道案内のエルフが必要かと思われます。我々だけで目的地へ辿り着くのは難しいと言うか……。」
 上手く言葉にならず語尾を濁してしまったが、言いたいことは通じたらしく、騎士長は頷いて返答した。
「そうだな。セイリア殿に言って案内人を用意してもらおう。」
 ファングの提案はつい先日地元の子供から聞いた、森でのセオリーが基になっていた。提案が通り、少しだけ不安が解消されたファングだった。
 その日のうちに、魔法使いの住むところへ向かうメンバーはリュミエールを発った。
 メンバーはエミルを筆頭に、ミリシア、ファング、護衛、学者、そしてエルフの案内人の六人。案内人はファングに森のことを教えてくれた子供だった。
 森は進めば進むほど湿度が増し、一種の蒸し風呂状態だった。不快指数もかなり上がる。たくさんの蝉が鳴き、やかましいほどだった。
 エミルとミリシアは馬に跨がり、護衛とファングがそれを引く。案内人が先頭で指針を示し、学者がそれらの後をついていた。
 途中、老体の学者を馬に乗せ、変わりにエミルが歩いたりもした。しかし多くの樹が進行を遮っており、とにかくノロノロとした進み具合だった。 とは言え着実に目的地へ向かっているのはやはりエルフの案内人のおかげであろう。彼は住み慣れた森をいとも簡単に潜り抜けていく。そして陽気な性格らしく、他の者と話しながら先導する。
「エークって凄いよね。僕もあいつと同じでヴァンデミ様の孤児院で育ったんだけど、でもエークがやっぱり出世頭だよね。なんてったってヴァンデミ様の側近だもん。」
「ふ〜ん。エークって孤児院出身だったのか……。あ、そうだ。あいつ特に人間に対して敵対心を持ってるとか、そんな話を聞いたことないか?」
 話し相手のファングは先日のエークの態度を思い出し、少年に聞いてみる。
「うん。何か個人的な恨みとか……そんなことを言ってたような気がするよ。あ、気を悪くしないでくださいよ。エルフ全体が人間に敵対心を持ってるわけじゃないですから。中には、その、人間にも悪い人が居て、そういう人間を許せないエルフも居るんですよ。」
 後ろで話を聞いているエミルを気にしてか、彼はそう説明する。すると今度は逆にエミルのほうから質問をぶつける。
「ということはエルフの中でも、親人間派と反人間派が居ると言うことでしょうか?」
「そうですね。」
「では……ヴァンデミ氏はどちらの派閥ですか?」
「どちらかといえば反対派かな? でも立場上、そんなことを表立って言いませんけどね。」

 一方、エミル達の会話から外れたファングは、ミリシアとの会話を楽しんでいた。
「ミリシア、兄弟とか居る?」
「ええ、元気のいい弟が一人居るわ。なんだかミニ四駆とか言うものに熱中してるみたいだけど……。」
 苦笑しながらミリシアは答える。
「ミニ四駆?」
 そういえばそんな遊びが王都で流行ってたっけ。ファングは少し思い出した。確かちょっと有名なミニ四駆レーサーの名前がアリアス・ラインテール……。
「ファングさんはご兄弟は?」
「姉と弟と妹が居るぜ。家に居ると賑やかでしょうがない。」
「うらやましいわ。」
 ミリシアはクスクスと笑って、その場面を想像しているようだった。

 それから約半日行進は続き、徐々に森の雰囲気が変わっていくことを誰もが感じ取っていた。
 ファングの警戒が功を奏したのか、はたまたエルフの案内人の選んだ路が良かったのか、途中緑林の輩と遭遇することもなく、「古木の森」とエルフ達が称している場所まで辿り着いた。ここに例の魔法使いが住んでいるらしい。
 そこは年古りた樹々が寄り添っており、それまでの森と違い冷気を感じることが出来た。木漏れ日が眩しく、そして神秘的であった。
 ここをエルフ達の聖地と言っても差し支えないのかも知れない。





08:37:13 | hastur | comments(0) | TrackBacks