January 05, 2005
第2回リアクション E2 S−2
S−2 活用の歌声
白い館は何も言わずわたしたちを待っていた。それとは別にわたしたちを待っているものがいた。それは二頭の馬だった。
これはうちの馬だ!
ウォレンが声を上げた。どうやらヌーの大群が押し寄せたとき、主人からはぐれていたのだろう。もしかすると、その主人は館の中に入れようとしたのだが、さすがに馬は入らなかったので逃がしたのかもしれない。
どちらにせよ、ここに馬が戻ってきているということは、やはりジェイリーアとルアフォートは館の中にいるのだろう。
しかしわたしたちは、この館に入る術を知らなかった。
まずウォレンが扉のノブをつかみ、思いっきり引っ張った。びくともしなかった。
さらに力の強いセリアが引いたり押したりしたが、それでも扉はうんともすんともいわなかった。
それでは、ということで年長者のわたしがこじ開けようとしたのだが……当然だめだった。
結局その日は良い案も浮かばず、扉の前で一日を過ごしてしまった。ところがそれはーケ月も続くこととなる。
やはり防御の魔法がかかっているというのは本当のようだ。わたしたち三人が寄って文殊の知恵で何とかしようとして、何とかなるものじゃなかった。なにやら言葉がおかしくなってきているが、とにかくそれくらいわたしたちは途方に暮れていた。
そこでわたしは考えた。わたしに出来ることといえば音楽を奏でることくらい。これを試さずに諦めることは出来ないであろう。
なぜそこまでやる必要があるのかよくわからなかったが、わたしはその時訳の分からない責任感に支配されていた。
その日も三人で扉と対峙していた。
さぁ、みんなで歌いましょう!
……わたし、ちょっと切れていたかもしれない。
開かないときは 開きますか?
開くときならば 開けましょう
開こうよそろそろ 開いちゃって
わたしたちはこんな呪文のような歌を繰り返し、繰り返し歌った。歌っているうちに、本当に開きそうな気分になるから不思議だ。
しばらく歌っていると、ちょっとした変化が起こった。館の内側から何か音がしたような気がしたのだ。その昔に反応してじっと聞き耳を立てていたが……別の昔にかき消されてしまった。
それはいつの間にかついてきていた、娘さんの歌声だった。
開かないときは 開きますか?
開くときならば 開けましょう
開こうよそろそろ 開いちゃって……
(次回「ある父と娘に関する物語」へ続く……)
指針NO.
E02:館を調べる。
E07:村の復興作業を手伝う。
E08:他の場所へ移る。
E06:その他のことをする。
00:51:17 |
hastur |
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January 04, 2005
第2回リアクション E2 S−1
第2回リアクション E2 ハスター
ある責任に関する物語・B
わたしが一番責任を感じるのは、歌を歌うとき。決して歌に失礼のないように歌おうとする。
父の場合はパンを焼くときだろう。父のパンはそんな感じの味がしていた。
歌を歌うだけが人生ではないが、パンを焼くだけが人生でもない。
わたしを魅了したあの楽団は、今どの辺りだろうか?
S−1 痕跡の落とし物
わたしはセリアとウォレンに会った後、先日お世話になった奥さんを訪ねた。どうやらウォレンの姉というのが昨晩の話に出てきた、白い館へ向かった女の子のような気がしたからだ。
奥さんは旦那さんと共に、村の中心部の木片を拾い集めているところだった。
どうも、先日は……。
あら、まだいらっしゃたのですか? こんな所では稼ぎにならないでしょうに。
奥さんは汗を一拭いしてわたしに声を返した。
いえ、実は人捜しをしてまして……。
わたしはセリアとウォレンのことを話した。奥さんは仕事の手を止めて聞いてくれていたが、旦那さんが話を遮った。
悪いが……また夜にでも来てくれ。今は忙しいのでな。
あの面倒臭がりな旦那さんがまじめに作業しているのはちょっと不思議な感じだった。奥さんは軽く説明をして、また仕事に戻って行った。
あんなのでも一応、長なんでね。今は必死なんですよ。もし良ろしかったらその二人も連れて、夜に来てくださいな。
次にわたしはさっき別れたばかりの二人を探した。二人は丘の上の、例の夫婦の娘さんと話をしていた。
兄や姉の手がかりになるとは思えないのだが、二人と娘さんは長い間話し込んでいる様子だった。私が近づいてみると、その理由が分かった。
二人は娘さんのペットがよほど珍しかったらしい。三人で車座に座り、ナゾベームと遊んでいるようだった。
ナー君恐怖症のわたしは彼らから半径10メートル以上を保ち、少し大きな声でさきほどの件を伝えた。
分かりました! 夜に村長宅ですね。
セリアとウォレンは手を叩き合い、身内の手がかりを得られたことを喜び合っていた。ナー君が尻尾を伸ばして喜びを表わしているようにも見えたが、多分目の錯覚だろう……。
じゃ、また後で。家の場所はその娘さんがご存じですから。
わたしはその場をそそくさと離れた。
やがて日が暮れ、わたしたちは村長のバラックへとやってきた。
それまでわたしが何をして時間を潰していたのかというと……大きな木にもたれてリュートをのんびりと弾いていたのだった。なんと非生産的なことを、と思うかもしれないが、芸術家というのはそんなものなのだ。真の芸術とは営利とは別の所に存在する。
まぁ、白状すれば力仕事も似合わないことだし、村人の復興作業を陰から支えようと、BGMを流していたのですが……。
ともあれ、わたしたちは小屋の中へ入った。驚いたことに、奥さんはわたしたちの人数分、夕食を用意してくれていた。
そちらのお二人さんが例の?今日は娘の相手をしてくださっていたそうで、ありがとうございます。
奥さんはセリアとウォレンにそう礼を言い、食卓に着くよう勧めた。
セー君とウォー君だぁ。
奥の方からは娘さんが嬉しそうな声を上げていた わたし、影が薄い……。
あ、ラグナセカさんもすてきな曲、ありがとうね。
いえいえ……。
わたしは照れながら席に着いた。
食事も終わりの頃、奥さんが本題を切りだした。
はい、これ、宿帳よ。ひょっとしたらお兄さんやお姉さんの名前が載ってるかも。
ありがとうございます!
セリアは宿帳を受け取ると、兄の名前を探し始めた。ウォレンも横から覗いている。
あった!
二人は同時に声を上げた。宿帳の指差すところにはルアフォート・ドーシルとジェイリーア・ノースウィンドの名前があった。日付はちょうど一月前、ヌーの大群が通る前日のチェックインになっていた。
二人は繰り返し奥さんに礼を言い続けた。でも奥さんは、その礼を受けずこう言った。
礼ならうちの宿六に言って。わざわざ宿屋の跡地で仕事して、こいつを見つけてくれたんだから。
旦那さんは食事が済むとすぐに奥に引っ込み、横になっていた。わたしは旦那さんの、村長さんの人となりが少し見えたような気がした。
セリアたちの兄と姉が、この村にいたことは確定したが、その後の消息は依然つかめていなかった。そこで、ウォレンの姉らしき女の子を見たという奥さんに詳しく話を聞くことにした。
そうそう、大きな声で、白い館に行く人!って呼びかけて……それから連れの男の子と馬に乗て出て行っちゃたのよ。
やはりジェイリーアとルアフォートは館に行ったみたいだ。
明日、その館に行ってみます。
セリアはそう言い、
他に手がかりはないようですし、行くしかないでしょう。
と、ウォレンが続けた。
わたしももう少しつきあいますよ。あの、奥さん、この帽子、いただいてもよろしい?
いいわよ。お昼の音楽代。
こうしてわたしは鍔の大きな麦藁帽子を手に入れた。
00:37:05 |
hastur |
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