December 06, 2004
第2回リアクション E1 S−1
第2回リアクション E1 ハスター
ある責任に関する物語・A
責任を取る。責任を果たす。責任を感じる。
連帯責任。責任重大。責任感。
親の責任。子の責任。僕の責任。
僕に人間を守るなどという責任があるのだろうか?
S−1 既知の調査
ケーキは見た目、美味しそうだった。小麦色のスポンジケーキで、デコレーションは全く無かった。
早速ジェイルは毒見を始めた。ウサギの耳を少しちぎって食べてみる。
……うんっ。美味しいよ。
そう言ってジェイルは二本目の耳に手を伸ばしていた。彼女は本当に幸せそうに食べる。
こっちまで美味しそうな匂いがやってきていた。別に人参が入っているようには見えなかったし、僕もケーキを食べ始めた。
味は素朴だけど癖もなく、素直に美味しかった。どこか懐かしい味でもあった。
こうなると手が止まらなかった。まだ朝食を食べていなかったのも手伝って、歓迎用のケーキはあっという間になくなった。黒猫はその様子をあくび混じりに眺めていた。
その日から僕は、行動の方針を変えてみた。それまでは入り口の扉を開けようとしていたけど、全く開かないようだし、もう少しこの館のことについて調べてみることにした。
メモ用の藁半紙と鉛筆は持っていたので、まず入ってからの日数を書いてみることにした。これは朝起きてから一本線を書き加えるだけだったのだけど、あまりにも主観的な時間の記録だと思った。
なぜならその時の僕達にとって、朝とは眠りから覚めたときだったからだ。館からは外の様子が少しもうかがえないので、その時が本当に日の出の頃かということは疑問だった。
この日にちに関する記録も、しばらくしてやめてしまった。というのも、10日も続ければ分かることだが、柱時計の日付表示と全く同じだったからだ。それならば貴重な紙を消費するよりも、時計を参照したほうが早かった。
実際、僕らが眠くなる頃に、時計の針は日の入りを指していたし、時計の針が日の出を指す時分に僕達は起きていた。この柱時計に生活のリズムを操られているような気もしたけど、特に違和感はなかった。
次に僕は館の見取り図を作った。館を出る方法が見つからない以上、この館のことをもっと良く知る必要があると思ったからだ。
出る方法が見つからないということに対して、僕はそれほどペシミスティックにはならなかった。出来れば早く空や太陽、そして何より星を見たかったけど、館を出たいという動機はそのくらいだった。
館はちょっと退屈だけど、暮らしは快適だし、館の主人も歓迎してくれているようだったから、気長に考えることにしていた。
家族や学院の友達達は心配しているだろうなぁ、とかたまには思ったりもするけど、とにかくここにいるうちは今の所安全なんだし……と気楽に考えていた。
気長に、気楽に、と考えることが出来るのは、僕の長所かも知れない。時には短所なのかも知れないけど……。
とにかく僕は見取り図を作った。それは一階と二階の隅から隅までの間取りを書き込んだものだった。どこかに隠されたスペースがあるかも知れない、と思っていたので、壁の厚さまで事細かく調べた。
でもそれは大した成果は挙げられていないようだった。大体館に入ったときに調べた通りだったからだ。特に怪しい空間も見つけられなかった。
一つだけ気付いたのは、柱時計の右側の壁に何か擦ったような跡があったことだった。それが何を示しているのかは、その時は分からなかった。
見取り図には新しい事柄を書き加えられなかったけど、調べている最中にちょっとした変化を見つけることが出来た。
ホールの間取りを調べているときだった。入り口の扉のほうから微かに音が聞こえた。それは音楽のように聞こえた。
僕はあわてて扉に耳をつけた。音楽は扉のすぐ外から……リュートと歌声のように聞こえた。
歌の内容までは聞き取れなかったけど、その歌声は三人の男性のものだった。そのうちの一人の声はどこかで聞き覚えのあるもののように聞こえた。
曲は単純なメロディのリピートで、ホールに煙と共に現れるあの曲とは異質のものだった。
歌の最中、僕は外にいる人に僕達が館の中にいることを示そうと、何回か扉を叩いた。でも反応は得られなかった。こちらからの音は外には漏れないのだろうか?
暫くの後、その歌は聞こえなくなった。でもこのことでいくつかのことが分かった。館の周りに誰かが来ていたということ。それはヌーの驚異が既に去っているということだった。
21:41:31 |
hastur |
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