November 06, 2004
第1回リアクション E2 S−2
S−2 偶然の寄食
ばたん、と扉を閉めると、さっきまでの騒然が嘘のような静寂が訪れた。何か別の時代へ迷い込んだ様な、妙な感覚がした。
飛び込んだ先は、毛の長い絨毯だった。埃だらけの荒屋のような場所を予想していたので、これは意外だった。
そこはホールのようだった。調度品は新品のように光沢があり、壁に掛けられた燭台の蝋燭で灯が保たれていた。
向こう側の壁の中央には大きな柱時計が掛かっていた。でもそれは入り口からは見る事は出来なかった。ホールの真中に二階へ通じる螺旋階段があったからだ。
左右の壁にはそれぞれ二つずつ扉が付いていた。
あたいらはホールの観察をそれ以上しようとしなかった。入り口の所でじっとして、外界の危険が去るのを待っていた。だけどどれだけ待てばいいか見当も付かなかった。さっきまで感じていた地響きも、この館の中では微塵も響いてこなかったからだ。
結局あたいらのお腹が鳴りだした頃まで、そこに待機していた。その間に柱時計は三回、時を知らせる音を立てていた。
そろそろ外の様子を見てくる。
あたいはそろそろしびれを切らしていた。ルアの返事も待たず再びノブを掴んだ。
でも、いくら力を加えても扉は全然動かなかった。
あれ? おっかしいなぁ。
どうしたの?
……開かない。ルアも試してみなよ。
ルアはあたいの代わりに扉を開けようとした。だけどやっぱり、扉は少しも動かなかった。まるでそれは壁に描かれた扉の絵のようだった。
それからあたいらは暫く、扉と格闘した。押したり引いたり、叩いたり蹴ったり、最後には二人で体当たりもしたけど、それはちっとも反応を見せなかった。
閉じ込められた……。
そう諦念にたどり着いたのは、更に柱時計が一回、ボーンと鳴った頃だった。
その時初めて、その匂いに気づいた。ホールに薄くだけど煙が漂っていた。その匂いは深い森林の霧のような香りで、その煙は見様によっては紫色に見えた。
ルアも煙に気が付いたようだった。
その匂いはどこかで経験したことがあったような気がした。そう、あれは……。
これ、お香のような物だよ。多分。よく祭事で使われるような……。
そうあたしはルアに聞かせた。それでもホールに起こった変化にあたいは不安を覚えた。そして更に変化が起きた。今まで静かだったホールに音が流れた。それは明らかに規則のある音の連続で、何かの楽器の演奏だった。管楽器の集合にも聞こえたし、オルガンのようにも聞こえた。あたいは音楽には疎い方だったし、それが何であるか特定する事は出来なかった。
それはルアも同じだった。知っているかどうか尋ねられたけど、聞いた事もない曲だし、楽器が何かも分からないよ、と答えた。
その曲はテンポが速くて、もともとは陽気な曲なのだと思う。でもその時聞いた演奏は、どこか空元気のような感じがした。
閉じ込められたという事実。突然現れた煙と音楽。あたいらは暫く怯える事しか出来なかった。
次に柱時計が鳴った頃、煙と音楽は消えていた。ますますお腹が減っていたあたいらは、ここでじっとしていても何も始まらないと、館を調べ始める事にした。
この館に魔法が掛けっている事は既に知っていたし、ついさっきの事件から何が潜んでいるか分からない。そう考えて、あたいらは離れないようにして館を探索する事にした。
まず最初にホールの左右にある、4つの扉から調べ始めた。その先はいずれも応接室やラウンジだった。樹の木目を活かした美妙な家具が揃っていた。だけどその他にめぼしい物も、食べ物もなかった。
次に螺旋階段を横目にホールを横切り、柱時計の所まで進んだ。
柱時計はルアの身長よりも一回り大きかった。先に太陽を模した飾りの付いた針が一本だけあって、今は120度の辺り、右斜め下を指していた。盤は上半分の半円が白で、下半分が黒だった。多分、地平線を表しているのだろう。そして驚いた事に盤の中央にはいくつかの窓が付いていて、日付を表す数字が見えていた。その時はしっかりと2月15日を表示していた。
時計盤の下では、金色の振子が規則的に揺れていた。
柱時計の外枠はしっかりとした木材で出来ていた。
柱時計の両側にも、一つずつ扉があった。あたいはどちらから調べに行くか迷っていた。振子は交互に、右へ行け、左に行けとあたいに言っているようだった。そして、背後に何か生き物が近づいていた。
13:27:47 |
hastur |
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