October 21, 2004

自転車


 落ち葉の洪水の中を
 泳ぐ 泳ぐように歩く
 ふと振り返ると
 足跡を消された僕が
 引き返す事が出来ずに困っている

 狼の雫を飲み干す
 そして 満月の夜を待つ訳だ
 それがカルキ入りの水道水だと気付かず
 一気に飲み干す訳だ

 コナゴナの水が 僕の細胞を叩く
 それで綺麗になった気になる
 その手の満足をかき集め
 身の潔白を証明しようとする

 真っ黒い汚れは
 逆に清潔感を与える
 だから
 半端なものは四捨五入する


 回転する僕のペダル
 回転しない僕のタイヤ
 景色は一つも変わらない
 まるで チェーンの外れた自転車を
 一生懸命漕いでるみたいだ

 1が出ても6が出ても「振り出しに戻る」
 ゲームは延々 続いていく
 そんな時は さいころを二つ振ってみる
 時には狡さも必要

 朝おきて
 指の数を確認する
 なぜそうしたかったのか 分からないが
 指は確かに十本あった




19:21:25 | hastur | comments(0) | TrackBacks

October 15, 2004

27歳の賢者


 27歳の賢者は言う。
「俺は風になびくものが好きだ。
 旗のように コートのように あの娘の長い髪のように。

 なびくというのは流されているのとは違う。
 確実に一点が固定されて、それでなびくのだ。
 俺はなびいていたい。
 時代に流されるでもなく 逆らうでもなく」


 27歳の賢者は言う。
「大昔 誰かが死を怖がった。
 みんながそれを真似た。
 死に対する恐怖の始まり。

 大昔 誰かが人を殺した。
 みんながそれを真似た。
 終わらない戦争の始まり。

 誰もが誰かの真似をしない。
 そんな時代に戻る事は 出来ないのだろうか」


 27歳の賢者は言う。
「隻眼の神は 冷酷で慈悲深い。
 罪を犯したものに 贖う事を忘れないように
 消えない傷を与え続ける。
 決して 罪人を殺したりはしない。

 俺は
 煙草の煙がしみないように
 片目を瞑って ギターを弾くだけだ」


 27歳の賢者は言う。
「選択権が全く無いという事は
 社会的に死んでいるという事。
 自殺する者は 社会的に生きる為 それを選択する。

 俺は
 芸術的に生きる為 自殺を選択するさ。
 色褪せるくらいなら 燃え尽きた方がマシさ」





20:43:51 | hastur | comments(0) | TrackBacks

October 11, 2004

ESCAPE


 やっと『休み』がやって来た。ロングは伸びをした。
 正確にいうと、『休み』を奪ったのだが。
「せっかくの長い休みだ。何をしようか」
 自問する。
「メイジの奴はずいぶん前から、同じように『長い休み』に入ってたな」
 長椅子に足を放り投げ、茶色の髪をかきむしる。メイジは元同僚だ。
 別にメイジにつられて『休み』が来たわけではない。かといって、預言者・カンカンの予言を気にしたわけでもない。ロングは無関心になって、それで『休み』が来たのだ。
 もともと、これといった目標があって生きてきた人間じゃない。ただ高いところが好きだった。
「アラのところでも行くか」
 カードだらけの財布をポケットに入れ、ごみごみした部屋を出た。そういえば、ブランドものを集めるのも好きだった。
 道には降下猟兵募集のビラ、鉛の兵隊が行進していた。それもいいかな。ロングは思った。
 アラの家についた。ちらりと見える縁側では、いつもどおりアラの祖父と祖母がうたた寝していた。
 ピンポーン。
「はいはい、どちらさまですか?」
 出てきたのはアラの母。大きい鼻がアラと似ている。
「僕ですが、アラはいませんか」
「ああ、ロングさん。ごめんなさいね、ちょっと今お姉ちゃんと出掛けてるの」
「いいですよ、たいした用じゃないですから」
 いい天気。帰り道の空はよかった。

 朝が来た。『休み』の朝。電車の時刻を気にしなくてもいい。
 顔を洗う。鏡の向こうには、たれ目で細い顎のロングの顔。
 TVをつけると、マリオネットがタップダンスを踊っていた。名前は「ピノキオ」。鼻が長かった。
「今日は何をしよう」
 自問する。
 結局、また町をぶらつく。この町はイチゴという。『楽団』はもう通り過ぎたので、子供はいない。
 ロングの足が止まる。看板があった。
『高いところへ行ける切符。たったの500円』
 看板の横にテーブルがあり、男が座っていた。男は左手の甲から血を流していたが、平気な顔でニコニコしていた。
「お兄さん。どうだい1枚」
「高いところって、どこまで?」
 男は得意満面の顔で答えた。
「飛行機よりも高いところさ」
 これはすごい。降下猟兵に入るより得じゃないか。ロングは考えた。考え込んだ。
「なあ、買ってくんないかな。俺、もっと南に行かなきゃいけないし、金ないんだ。ここの坊主がいなくなったからってことで、ちょっと働かせてもらってるんだ」
 男は笑顔を少し曇らせた。
「よし買おう」
 ロングはカードを出した。男はもっと困った顔をした。だからロングは仕方なくエルメスのスカーフで切符を買った。

 ロングは高いところへと飛び立った。イチゴでは、いや世間一般ではそれは嫌なものらしい。理由は簡単。「安く飛行機より高く行く」から。
 でも、誰も見てなかった。見て見ぬふりをした。
「たとえ変な顔してても、すぐに忘れるんだろう?」
 ロングは言った。
 途中で腹が減ったが、ゴミの山を漁ってしのいだ。
 そして、高いところに昇った。
 そこからは、すべてが同じに見えた。だからロングは高いところが好きだ。
 そこからは、すべてが同じに見えた。だから一生懸命、背比べしたってダメだ。
 『休み』が来たのはそういうことかもしれない。
 アラを探してみたが、やはり見つからなかった。

 次の日の朝。『休み』はまだまだある。
 ピンポーン。
 玄関のドアを開けると、少女が立っていた。可愛い少女だ。ロングは驚いた。『楽団』が通っていった後なのに…?
「……どなた?」
「あたしはクラヤミ。あたしを三本辻まで連れてって」
 声も可愛い。右胸に兎のぬいぐるみの耳だけを抱いていた。
「でも、僕は神様じゃないよ。当然巫でもない」
「だって、高いところにいたじゃない」
 ロングは屈み込みながら言った。
「だからといって神様とはいえないよ。ねえ、どこから来たの?」
 クラヤミは少しがっかりした。
「ラララ」
「ラララから?遠くから来たんだね」
 そして、慰めも含めて、
「せっかくだから遊んでいかないか?」
 と言った。
 クラヤミははにかんで頷いた。
「あたし、お絵描きがしたい!」

 ロングは部屋のブランド品を片付け、奥にあった段ボールを引っ張りだした。クレヨンも出した。
 ロング達は段ボールを駐車場に広げ、お気にいりの色に塗った。色は混ざりあって暗くなった。
 誰も見ていなかった。見て見ぬふりをしていた。
「嫌な顔してても本当はうらやましいんだろう?」
 ロングは言った。
 『休み』は楽しい。きっと、こういうことがしてみたくて『休み』が来たんだろう。
 アラの顔を描いてみたが、上手く描けなかった。

「そろそろいかなくっちゃ」
 クラヤミは出掛ける準備。兎の耳をしっかりと抱く。
 そういえば『休み』はまだまだある。連れていってもいいか。ロングは思った。
「連れていってあげるよ。本当は僕、神様なんだ」
 目を大きく開けてクラヤミ。
「さっきといってることが違うわ。じゃあ、もう一回高いところにいってみせて」
 次はポールスミスのスーツで切符を買おう。ロングはまた、ブランド品を減らした。




14:12:23 | hastur | comments(0) | TrackBacks