October 30, 2004

第0回リアクション E2 S−2


 S−2 月のいたずら

 あたいは暁の少し前にようやく床に就いた。
 そしてあたいは奇妙な夢を見ていた。
 それは昔から何回も見ているし、毎回違っていた。内容は小さい頃に聞かされたおとぎ話だった。
 男の子と女の子が出てきて、青い鳥を探しに森に入るという内容だった。ただ男の子と女の子の関係はいつも違っていた。あるときは兄妹で、あるときは姉弟。幼なじみの時もあれば、全く同じ顔の双子の時もあった。
 結末も毎回違っていた。鳥を見つけるけどなぜか逃がしてしまったり、青い鳥の正体が巨大な鳥で男の子と女の子が食べられてしまったり、探し回ってふと後ろを見ると、逆に二人のほうが鳥に追いかけられていたり。
 あたいは夢の中ではたいてい女の子の役だったり、客観だったりした。そしてその晩は、森で迷わないようにパンを落としながら青い鳥を探していると、いつの間にか男の子がいなくなり、パンをたどって戻ってみると青い鳥がパンをついばんでいた、というものだった。
 はっきり言って訳が分からなかった。このおとぎ話の本当の結末も、いくら思い出そうとしても思い出せないままだった。
 昔、このことが気になって友達たちに話したことがある。でも返ってくる結末は十人十色だった。

 翌日、あたいは昼前に宿屋の人に起こされた。珍しいものが見られるから表に出てごらん、という具合に起こされて、言われるままに外に出た。
 玄関の所においてある帽子と手袋をとって外に一歩出ると、妙な違和感を覚えた。昼なのに外が暗かった。クォリネの上空には雲が無い、というのが常識だった。不思議に思い太陽のあるべきところへ視線を移した。
 驚いたことに太陽が欠けていた。あたいはピンと来た。
 日食って奴だね。
 後から外に出ていたルアのそばによった。あたいも天文学を専攻しているだけあって、この現象にも詳しかった。当然ルアも一目で分かったようだった。
 生まれて初めて見るよ……。
 そうしている間にも太陽は徐々に影に食べられていった。
 そしてついにリング状の太陽が作られた。
 その時、異変が起きた。
 周りの森からは一斉に鳥が飛び立ち、微かな地響きが感じられた。そして狩人風の男が村に飛び込んできた。
 逃げろ! 西の方からヌーの群れがこっちに向かってる!奴らは正気を失っているぞ!
 それから男は逃げろを連呼していた。村は騒然となった。
 なんてこと……ルア、逃げるよ!
 ヌーって何なの!? 逃げるって?
 あたいは明らかに焦っていた。
 ヌーってのは巨大な牛みたいなもんさ。普段は大人しいけど狂うと手に負えない。奴らは何百頭という単位で群れているから、この村を通過するとなると一溜まりもないんだよ!
 その説明の間、地響きはだんだん大きくなっていった。

(次回「ある選択に関する物語」へ続く……)




指針NO.

E01:白い館に逃げ込む。
E02:他の街や村へ逃げる。
   (行き先と行った先での行動も明記)
E03:クォリネに留まる。
E04:その他のことをする。




08:39:47 | hastur | comments(0) | TrackBacks

October 29, 2004

第0回リアクション E2 S−1


第0回リアクション E2 ハスター

 ある運命に関する物語・B


 あたいがここに来て一年が経った。あるいは一日が経った。
 そしてこれが終わりではなく始まりであることも知っていた。


 S−1 鳥籠の狩人

 その春、あたいはうずうずしていた。せっかく種蒔き休みに入って学院がないというのに、あたいは屋敷で勉強をしていた。正確に言えば、勉強させられていた。
 2月(註:我々の世界での4月)になって母が急に淑女になるための勉強をしなさい、と言い出したからだった。社交界デビューでもさせる気なのかしら?でもその考えも少しは分かった。あたいも16歳になったのだし、そろそろ家のこととか、進路とか、考え始めなきゃならない。
 だからといって屋敷に閉じ込もることは、あたいにとっては我慢が出来なかった。長い休みがあるといつもならクォリネに行っていたし、それが当たり前だったからだ。クォリネまで馬を飛ばす。そして狩りをして料理を開発する。夜になると星を眺める。そういった一連のご機嫌なことを我慢することは出来なかった。

 あたいはいろいろとクォリネに行くため、考えを巡らせていた。そして13日になってその方法を引っ張り出す紐を見つけた。学院で同じ天文学専攻のルアが、新しい星座を作るために星のよく見える場所を探しているということを知ったのだ。
 あたいは友達の水先案内人を引き受けたことを理由に、母から屋敷から出る許可をもらった。そしてルアを探し回った。
 ルアは街の広場で仲間とボール遊びをしていた。無邪気にも彼は遊んでいたのだ。種蒔き休みも残り少なくなってきているというのに。ルアはこういう楽観的なところがあると思う。
 ともかくルアを発見したあたいはそこへ駆け寄りこう言った。
 クォリネに行こうっ!
 それだけ言うとルアの仲間に、これ、借りるよ、と告げて彼を引っ張り出した。
 ルアはきょとんとしていた。あたいは説明を始めた。
 ルアが星のよく見えるところを探しているって小耳に挟んでね。実はあたい、ちょくちょくクォリネまで行ってるんだ。聞いたことない?「奇跡の地」って。あそこは特に高い場所じゃないんだけど、アセイラムで一番星がよく見える村なんだ。上空は常に晴れ渡ってるしね。
 あたいはしめた、と思った。話を聞いているうち、ルアは喜びを隠せないようだったからだ。あたいは話し続けた。
 ついでに言うと、あそこは珍獣の宝庫でもあるのさ。あたいは狩りの修業と食材の確保を兼ねてあそこによく行ってたんだけど、この春はちょっと謹慎中でね。ちょうどクォリネに行く口実を探していたのさ。
 ルアは一も二もなく、話に乗ってくれた。

 ルアは、ルアフォート・ドーシルは、闊達で明るい子だった。明るい子、といったけどあたいとはおない歳だ。背が高くて奇麗な金髪で、顔もちょっと可愛かったので女の子の間では結構人気があるみたいだった。でも彼はそういうことに鈍いのか、ただ単に異性が苦手なのか、浮いた話というのは聞かなかった。

 出立は14日の朝だった。あたいは二頭、馬を用意した。あたいは自分用の葦毛の馬に跨がり、ルアには焦げ茶色の馬を貸した。
 ルアはあまり乗馬の経験がなかったので、あたいが少し教えてあげた。意外と飲み込みが良く、ルアの上達はかなり早かった。あたいは、なかなかやるじゃん、と声をかけた。
 暖かい新緑の中を走り抜けるのは気持ちが良かった。
 一番心配していた野党との遭遇もなく、あたいらは昼過ぎにはクォリネに着いた。

 クォリネに着いてすぐ、村人に帽子と手袋を貸し与えられた。あたいはこういうことに慣れているけど、ルアは戸惑っていたので説明をしてあげた。
 ここには他の地方とは違う言い伝えがあってね。「過去は太陽、今は星、未来は月」って言う言葉があるんだ。太陽には未だ生まれざるもの、月には生を終えたものが住んでいると言う意味でね。新しい生命は陽光よりこの地に降り、死者の魂は月光により月へと昇る。そしてクォリネの住人は、新生の光である陽光は既に魂を宿す器には強烈であるため、直接浴びるのは危険。陽光はまず大地に注がれ、そこから新しき魂を授かるべき、って考えてるんだ。だからこうやって、直射日光を浴びないようにしてる。あと……死者の光である月光を三千夜浴び続けると生ける屍となってしまう、とも考えてるみたい。
 ルアは少し納得したようで渡された帽子を軽く被った。
 村の規模は小さく、家も30くらいしかなかった。でも観光地として成り立っているので、宿屋は2軒あった。あたいらはそのうち納屋のあるほうに入ってひとまず休憩した。あたいは今日の陽のある内に狩りに出たかった。
 なぁ、ルア、狩りに行きたいんだけど……付き合ってくれよ。代わりに観光案内してやるからさ。
 え? 今すぐなの? 別にいいけど……。
 ルアはあたいの申し出を受け入れた。どうせ夜になるまで、ルアはやることがなかったことだし……。

 あたいらは休憩もそこそこに、再び馬に跨がった。あたいの先導で村から南へ進むと、村の建物とは明らかに違う建造物があった。
 これが白い館ってやつ。何でもだいぶ昔からある建物らしいんだけど、ほら、全然痛んでないだろ? それに、扉も窓も全然開かなくって、誰も入ったことがないんだ。何でも50年くらい前に村に魔法使いが来たときに、村人たちがこの館の鑑定を頼んだんだって。それで分かったのは、こいつには維持と防御の魔法がかかっているってこと。あと、その魔法使いは、「本当の助けが必要なときは迷わずこの館に入るがいい」っていう言葉を残して、去っていったんだってさ。
 あたいはそう案内した。
 よく知ってるね。
 まあね。よくおじいさんに聞かされたしね。
 おじいさん、ここの出身なの?
 そういうわけじゃないけど、よくここに狩りに来てたみたい。これを作ったのもここだって聞いてるし。
 あたいは答えながら腰に着けていたお守りを取り出した。それは一見ウサギの足で出来ているように見える。
 改めて館を見上げると、村のどの家よりも大きく、瀟洒な感じがした。窓は全て板が打ち付けられていて、中の様子は分からなかった。あと、窓の配置から予測すると4階建てのようだった。
 しばらくしてあたいらは館を後にして、森の方へと馬を進めた。

 森に入ると観光案内は珍獣案内へと変わった。馬から降りて手綱を引いて、前を進んでいたあたいは急に立ち止まった。
 早速、珍種が見つかったよ。見なよ。これがユープケッチャ。足の無い甲虫さ。こいつは自分の糞を食べて生きてるんだ。こうして腹を軸にして、長い触覚を使って回転し続ける。そうやって自分の糞にたどり着くんだ。だから、ほら、こんな具合にユープケッチャの回りには円状に糞の山が出来ているだろ。
 ルアはこんな虫は見たことが無いようだった。今も触覚をゆっくり動かして回転しているところだった。
 この回転の速さが結構正確でね、クォリネの人たちは時計代わりに使ってるって話だよ。
 あたいはそう解説を打ち切って前へ進み始めた。

 次に見つかったのは珍妙な生き物だった。そいつの大きさはネズミくらい。そいつはのそのそと茂みの間から姿を現した。そいつは鼻で歩いていた。狩りの間は静かにしなければならないことは分かっているはずだったけど、思わずルアは声を上げた。
 ねぇ! あれなに!
 あたいは人差し指を唇に当てて答えた。
 しぃ。あれはナゾベームってんだ。あの長い4本の鼻で歩くんだけど、動きは鈍いよ。むしろあの目茶苦茶長い尻尾のほうが役に立ってるね。
 確かにその生き物の歩みは遅かった。けどルアが声を上げた瞬間、それは尻尾を素早く上へ伸ばし、樹の上へ逃げていった。
 逃げたナゾベームを目で追って、頭上を見るとそこには白い生き物がいた。ウサギに見えた。でもそのウサギは枝に二本足で立ち、幹の方へと歩き、更に上へと昇るところだった。
 あたいはというとここに来て初めて弓に矢を番えて、そのウサギのようなものに照準を合わせているところだった。
 その数瞬間、ルアは息を止めてじっとしていた。放たれた矢は狙い違わず獲物の首に命中した。
 がさがさと音を立てて落ちていくそれを拾いに行くと、それは大きさも形もウサギのようだった。
 これは何なの?
 これはドモスってんだ。見なよ。
 そう言ってあたいはドモスの目を指差した。
 ……目が青いっ。ウサギの癖に。
 だから言ったじゃん。ウサギじゃなくてドモスだって。
 あ、さっきのお守りって……。
 そう、ドモスの足で出来てるんだ。

 更に奥に進むとだんだん暗く、じめじめしてきた。さっきまでは木漏れ日もあったのに、今は密度の濃い樹木のせいでそれさえ差し込んでこない。
 ドモスを一匹獲ってからだいぶ時間が経ったように思える。間にいくつか果実も採ったけど、あたいは前進する足を止めなかった。料理するには全然足りないと思ったからだ。
 ねぇ、まだ帰らないのぉ?
 ルアが抗議の声をあげた時、またあたいは立ち止まって前方を指差した。
 そこには緑色の苔で覆われた岩があった。その上に、白いネズミが一匹いた。
 よく見るとそのネズミは普通のネズミとどこか違っていた。背中に小さな羽根が着いていた。
 あれがハネネズミさ。
 あたいはネズミに近寄ろうとはせず、その場でルアに教えた。
 あの羽根は飛ぶためのものじゃないんだ。オスがメスにプロポーズする時にあの羽根が光る。メスが答えるときに光る。その為の羽根なんだ。
 ハネネズミは岩に付着している苔を食べているようだった。あたいの説明が続いた。
 あの羽根には樹と同じように年輪が刻まれているんだ。昔、150歳のハネネズミが見つかってみんなを驚かせたって話もある。ここの生き物はたいてい短命なんだけど……あまり言いたくないけど、クォリネの村人も比較的短命なんだ……だけど、ハネネズミだけは特別で、一匹でいると永遠に近い寿命を持っているんだって。でも、子供を作るとオスもメスもあっという間に死んでしまうんだ。交尾が終わるとね、二匹とも涙を流し始めるんだって。そして子供が生まれると、体液の不足で死んでしまうんだ。
 永遠の命を持っているのに、子孫を増やそうとすると死んでしまう……そんなハネネズミの説明を口にしながら観察していると、とても神秘的な生き物に見えた。一度、光るハネネズミを見られたらいいなぁ、とも思った。

 結局、狩りはこれでおしまいにした。帰る途中、往路で見つけたユープケッチャは8分の1周、回転していた。

 宿屋に帰る頃には黄昏時になっていた。あたいは戻るとすぐ、厨房に入った。こういうことは過去何回かあって、宿屋の人も厨房を使うことを認めてくれていた。
 あたいは奥から、獲った獲物を料理してるから、ちょっと待ってな、とルアに告げた。
 しかしドモス一匹では明らかに材料不足だった。そこであたいはドモスの一品料理だけを作り、他の料理は宿屋の人に頼むことにした。
 ドモスを調理するのは2回目だった。前回は香草焼きにしてみたのだが、あまり美味しくならなかった。幻のメニュー「ぴょん吉」を超えるものを作るまでの道程が遠く感じた瞬間だった。今回は方向を変えてシチューにしてみることにした。
 いくつかの根菜とドモス、ミルクと生クリームを加え鍋で煮る。そして塩とハーブで味を調えた。しっかり煮えた頃を見計らって、皿に盛り付けて食堂へ持っていった。
 野営中の美味しいメニューってのを開発中でね。食べて感想を聞かせてよ。
 食卓にはその他に宿屋の人が用意してくれた茹でトウモロコシや、葉菜のサラダが並べられた。
 ひょっとしてこのシチュー、ドモス?
 あたいは向かいの席に座って首を縦に振った。
 ルアは何だか、意を決したという感じで食べ始めた。

 食事が終わるとすっかり外は暗くなっていた。
 ルアは荷物の中から望遠鏡を、手製の小さな望遠鏡を取り出して、あたいを引っ張るように宿屋から出た。
 いつ見てもこの村から見る星空は、近かった。星のない空間を探すほうが難しい、そんな幻想に捕われる。
 ルアは夢中になって宿屋の屋根に登った。信じられないことに、梯子も使わずさっさと登り切ってしまった。あたいは宿屋の人に梯子を借りて後を追った。
 思い返せばあたいが天文学に興味を持ち始めた理由のうちの一つはここの星空だった。おじいさんの足跡を追って、母さんの過去を追ってここに来ていた。最初は狩りが目的だったけど、最近は2割か3割は星を見るためにクォリネに来ている気がする。
 狩人になるか、天文学者になるか、はたまた家を継いで貴族の仕事を受け継ぐか。いまだに迷っていた。その答えを星占いに託すのも面白いかも……。あたいはルアの横に座ってそんなことを考えながら星を眺めていた。
 冬の星座から春の星座に変わっていく時期だった。狩人座が見えづらくなっていき、代わりに大冊座がよく見える。何かを暗示しているようだった。その夜は月もなく、いつもより星がよく見えた。月が見えないということを、このときもっと追求するべきだった。
 それからあたいはさっきの料理に付いて考えていた。ルアは一口食べた瞬間、眉間にしわを寄せた。感想はその表情だけで十分だった。
 ミルクの量がまずかったのかなぁ
 あたいは小さく呟いた。横のルアが小さく笑ったのに気づいた。あたいはルアに声をかけた。
 言った通りの星空だろっ。王都にいたんじゃこんなの見られないよ。
 そうだね。ジェイル、教えてくれてありがとう。
 なに言ってんだよ。ルアのおかげでルアもまたここに来られたんだから、感謝するのはこっちさ。それより星座、作るんじゃなかったの?
 ルアは思い出したように望遠鏡を取り出し、観察を始めた。
 その晩ルアは二つの星座を作った。北を示す星、ポラリスのそばにあった星々にユープケッチャ座と名付け、大冊座の隣にあった星々にハネネズミ座と名付けた。
 そういった作業を終えた後も、ルアはぼんやり星を仰視し続けていた。あたいも熱心に観察していた。
 星ってキレイだよね。
 ルアがぽつりと言葉を漏らしたので、
 そうだね。
 と、返事をした。ルアは素直にその晩の星に感動していた。




00:20:17 | hastur | comments(0) | TrackBacks

October 28, 2004

第0回リアクション E1 S−2


 S−2 太陽の空中分解

 僕達は暁の少し前にようやく床に就いた。
 そして僕は奇妙な夢を見ていた。
 それは昔から何回も見ているし、毎回違っていた。内容は小さい頃に聞かされたおとぎ話だった。
 男の子と女の子が森に迷って、お菓子で出来た家に着く、という筋の話だけど細部が毎回違っていた。
 僕は夢の中ではたいてい男の子の役だったり、客観だったりした。けど男の子と女の子の関係はちょっとずつ違った。あるときは兄妹で、あるときは姉弟。幼なじみの時もあれば、全く同じ顔の双子の時もあった。
 そして一番毎回変わっていったのが結末だった。お菓子の家には十中八九、悪い魔法使いのおばあさんがいるのだけど、逆に騙して暖炉で焼き殺したり、仲良くなって一緒にお菓子を食べたり、シロップのお風呂に入れられてお菓子にされたり、と様々だった。
 その晩の夢は、男の子が壊れたクッキーの柱時計を直してあげて、お礼におばあさんにウサギ型のケーキを作ってもらう、というものだった。
 はっきり言って訳が分からなかった。このおとぎ話の本当の結末も、いくら思い出そうとしても思い出せないままだ。
 昔、このことが気になって友達たちに話したことがある。でも返ってくる結末は十人十色だった。

 翌日、僕は昼前に宿屋の人に起こされた。珍しいものが見られるから表に出てごらん、という具合に起こされて、言われるままに僕は外に出た。
 玄関の所においてある帽子と手袋をとって外に一歩出ると、妙な違和感を覚えた。昼なのに外が暗かった。クォリネの上空には雲が無い、と散々ジェイルに聞かされていたので不思議に思い、太陽のあるべきところへ視線を移した。
 驚いたことに太陽が欠けていた。
 日食って奴だね。
 先に外に出ていたジェイルが僕のそばにやってきた。ジェイルも天文学を専攻しているだけあって、この現象にも詳しいようだった。当然僕にも一目で分かった。
 生まれて初めて見るよ……。
 そうしている間にも太陽は徐々に影に食べられていった。
 そしてついにリング状の太陽が作られた。
 その時、異変が起きた。
 周りの森からは一斉に鳥が飛び立ち、微かな地響きが感じられた。そして狩人風の男が村に飛び込んできた。
 逃げろ! 西の方からヌーの群れがこっちに向かってる!奴らは正気を失っているぞ!
 それから男は逃げろを連呼していた。村は騒然となった。
 なんてこと……ルア、逃げるよ!
 ヌーって何なの!? 逃げるって?
 ジェイルは明らかに焦っていた。
 ヌーってのは巨大な牛みたいなもんさ。普段は大人しいけど狂うと手に負えない。奴らは何百頭という単位で群れているから、この村を通過するとなると一溜まりもないんだよ!
 その説明の間、地響きはだんだん大きくなっていった。
 僕はその時、運命とか神とか、そういったものを少なからず感じていた。

(次回「ある選択に関する物語」へ続く……)




指針NO.

E01:白い館に逃げ込む。
E02:他の街や村へ逃げる。
   (行き先と行った先での行動も明記)
E03:クォリネに留まる。
E04:その他のことをする。




12:35:29 | hastur | comments(0) | TrackBacks

October 27, 2004

第0回リアクション E1 S−1


第0回リアクション E1 ハスター

 ある運命に関する物語・A


 僕がここに来て一年が経った。あるいは一日が経った。
 そしてこれが終わりではなく始まりであることも知っていた。


 S−1 星の感触

 僕が新しい星座を作ってやろうと思ったのは、一学期の始業式が始まる前の種蒔き休みのことだった。
 それまで学院の図書館を漁っていたのだけど、星座表の空白が多いことに気づいたからだ。多分学院の歴史がまだ浅いからだと思う。
 新しい星座を作るには、まず既存の星座に含まれていない星や、未知の星を見つけなければならない。当然十等星くらいの星まで探さなきゃ駄目だと思った。
 その為に、僕は学院の天文台を訪れた。

 ……時期が悪かった。今の時期は春の観測会と称して、天文台は学者たちに占領されていた。学院の施設利用の優先順位はいつだって学者が上だ。僕の計画は早くも暗礁に乗り上げた。
 でも僕は大して落ち込まなかった。方法はまだあるはずだ。多くの友達や学者によく星の見える場所がないか聞いて回った。そしてその間も手製の小さな望遠鏡を片手に家の屋根からでも観測を続けていた。
 程無くして吉報が舞い込んだ。後から考えると、これが吉報だったかは疑問だけど、とりあえずこの時は吉報に違いなかった。そして知らせを持ってきたのはジェイルだった。僕はこの時のやりとりをよく覚えている。
 彼女は街の広場で仲間とボール遊びをしていた僕を見つけると、走ってやってきて一言言った。
 クォリネに行こうっ!
 それだけ言うと仲間に、これ、借りるよ、と告げて僕を引っ張り出した。
 僕がきょとんとしてると、彼女は早口で説明を始めた。
 ルアが星のよく見えるところを探しているって小耳に挟んでね。実はあたい、ちょくちょくクォリネまで行ってるんだ。聞いたことない?「奇跡の地」って。あそこは特に高い場所じゃないんだけど、アセイラムで一番星がよく見える村なんだ。上空は常に晴れ渡ってるしね。
 僕はその話を聞きながら、自分でも頬が緩んでいくのが分かった。そんな僕の顔を見ながら、ジェイルは話し続けた。
 ついでに言うと、あそこは珍獣の宝庫でもあるのさ。あたいは狩りの修業と食材の確保を兼ねてあそこによく行ってたんだけど、この春はちょっと謹慎中でね。ちょうどクォリネに行く口実を探していたのさ。
 ジェイルはいたずらっぽく笑った。僕を出しに使おうってことらしい。でもそんなことは関係なかった。僕は喜んで話に乗った。

 ジェイルの本名は……確かジェイリーア・ノースウィンドだった。一応の下流貴族の娘で、僕と同じ天文学を専攻していた。年も同じだった。
 見かけはそれほど貴族貴族してなくて、女の子女の子もしてなかった。かといって地味でもなかった。どちらかというとお祭り屋という感じで、騒動の起こるところには欠かさず顔を出していた。
 僕はどちらかといえば奥手のほうで、女の子の前だといつも上がってしまう。でも、ジェイルが相手だと、男子の友達たちと同じような気がした。

 出立は2月14日(註:我々の世界での4月にあたる)の朝だった。ジェイルは二頭、馬を用意してくれていた。ジェイルは自分用の葦毛の馬に跨がり、僕には焦げ茶色の馬を貸してくれた。
 僕はあまり乗馬の経験がなかったけど、彼女が先生役になってくれて結構スムースに乗りこなせるようになった。僕の上達がかなり良かったのか、彼女は、なかなかやるじゃん、と声をかけてくれた。それでもジェイルほど御するまでには到らなかった。
 暖かい新緑の中を走り抜けるのは気持ちが良かったけど、長い騎乗でおしりが痛かった。
 一番心配していた野党との遭遇もなく、僕らは昼過ぎにはクォリネに着いた。

 クォリネに着いてまず感じたのは、村人の外見の異様さだった。みんながみんな鍔の広い帽子を被り、手足も肌を見せないように手袋や長い靴を着用していた。僕らも着いてからすぐ、帽子と手袋を貸し与えられた。ジェイルはこういうことに慣れているらしく、訳を教えてくれた。
 ここには他の地方とは違う言い伝えがあってね。「過去は太陽、今は星、未来は月」って言う言葉があるんだ。太陽には未だ生まれざるもの、月には生を終えたものが住んでいると言う意味でね。新しい生命は陽光よりこの地に降り、死者の魂は月光により月へと昇る。そしてクォリネの住人は、新生の光である陽光は既に魂を宿す器には強烈であるため、直接浴びるのは危険。陽光はまず大地に注がれ、そこから新しき魂を授かるべき、って考えてるんだ。だからこうやって、直射日光を浴びないようにしてる。あと……死者の光である月光を三千夜浴び続けると生ける屍となってしまう、とも考えてるみたい。
 郷に入れば何とやら、ということらしい。僕は新生の光を浴びないように渡された帽子を軽く被った。
 それから僕は村の様子を見回した。前に聞いていた通り、村の上空は奇麗に晴れていた。そして地面は乾ききっていて、雑草さえ一つも生えていない。
 村の規模は小さく、家も30くらいしかなかった。でも観光地として成り立っているらしく、宿屋は2軒あった。僕らはそのうち納屋のあるほうに入ってひとまず休憩した。ジェイルは今日の陽のある内に狩りに出たがってるようだった。
 なぁ、あたい、狩りに行きたいんだけど……付き合ってくれよ。代わりに観光案内してやるからさ。
 え? 今すぐなの? 別にいいけど……。
 僕は彼女の申し出を何となく、ちょっと疲れていたけど、受け入れた。どうせ夜になるまで、僕はやることがなかったことだし……。

 僕らは休憩もそこそこに、再び馬に跨がった。ジェイルの先導にしたがって村から南へ進むと、村の建物とは明らかに違う建造物があった。
 これが白い館ってやつ。何でもだいぶ昔からある建物らしいんだけど、ほら、全然痛んでないだろ? それに、扉も窓も全然開かなくって、誰も入ったことがないんだ。何でも50年くらい前に村に魔法使いが来たときに、村人たちがこの館の鑑定を頼んだんだって。それで分かったのは、こいつには維持と防御の魔法がかかっているってこと。あと、その魔法使いは、「本当の助けが必要なときは迷わずこの館に入るがいい」っていう言葉を残して、去っていったんだってさ。
 ジェイルがそう案内してくれた。
 よく知ってるね。
 まあね。よくおじいさんに聞かされたしね。
 おじいさん、ここの出身なの?
 そういうわけじゃないけど、よくここに狩りに来てたみたい。これを作ったのもここだって聞いてるし。
 ジェイルは答えながら腰に着けていたお守りを取り出した。それはウサギの足で出来ているように見えた。
 改めて館を見上げると、村のどの家よりも大きく、瀟洒な感じがした。窓は全て板が打ち付けられていて、中の様子は分からなかった。あと、窓の配置から予測すると4階建てのようだった。
 しばらくして僕らは館を後にして、森の方へと馬を進めた。どうやら僕に対する観光案内はこれで終わりらしい……。

 森に入ると観光案内は珍獣案内へと変わった。馬から降りて手綱を引いて、前を進んでいたジェイルが急に立ち止まった。
 早速、珍種が見つかったよ。見なよ。
 指差す先の地面を見てみると、小さな黒い昆虫がいた。
 これがユープケッチャ。足の無い甲虫さ。こいつは自分の糞を食べて生きてるんだ。こうして腹を軸にして、長い触覚を使って回転し続ける。そうやって自分の糞にたどり着くんだ。だから、ほら、こんな具合にユープケッチャの回りには円状に糞の山が出来ているだろ。
 こんな虫は見たことが無かった。今も触覚をゆっくり動かして回転しているところだった。
 この回転の速さが結構正確でね、クォリネの人たちは時計代わりに使ってるって話だよ。
 ジェイルはそう解説を打ち切って前へ進み始めた。でも僕はいつまでもこの昆虫を観察していたい気分だった。

 次に見つかったのは珍妙な生き物だった。そいつの大きさはネズミくらい。そいつはのそのそと茂みの間から姿を現した。そいつは鼻で歩いていた! 狩りの間は静かにしなければならないことは分かっていたつもりだったけど、思わず僕は声を上げた。
 ねぇ! あれなに!
 ジェイルは人差し指を唇に当てて答えた。
 しぃ。あれはナゾベームってんだ。あの長い4本の鼻で歩くんだけど、動きは鈍いよ。むしろあの目茶苦茶長い尻尾のほうが役に立ってるね。
 確かにその生き物の歩みは遅かった。けど僕が声を上げた瞬間、それは尻尾を素早く上へ伸ばし、樹の上へ逃げていった。
 逃げたナゾベームを目で追って、頭上を見るとそこには白い生き物がいた。僕にはウサギに見えた。でもそのウサギは枝に二本足で立ち、幹の方へと歩き、更に上へと昇るところだった。
 木登りするウサギは初めて見た。ジェイルはというとここに来て初めて弓に矢を番えて、そのウサギのようなものに照準を合わせているところだった。
 その数瞬間、僕は息を止めてじっとしていた。放たれた矢は狙い違わず獲物の首に命中した。
 がさがさと音を立てて落ちていくそれを拾いに行くと、それは大きさも形もウサギのようだった。
 これは何なの?
 これはドモスってんだ。見なよ。
 そう言ってジェイルはドモスの目を指差した。
 ……目が青いっ。ウサギの癖に。
 だから言ったじゃん。ウサギじゃなくてドモスだって。
 あ、さっきのお守りって……。
 そう、ドモスの足で出来てるんだ。

 更に奥に進むとだんだん暗く、じめじめしてきた。さっきまでは木漏れ日もあったのに、今は密度の濃い樹木のせいでそれさえ差し込んでこない。
 ドモスを一匹獲ってからだいぶ時間が経ったように思える。間にいくつか果実も採ったけど、満足いく成果では無いのだろう。ジェイルは前進する足を止めなかった。
 ねぇ、まだ帰らないのぉ?
 僕が抗議の声をあげた時、またジェイルが立ち止まって前方を指差した。
 そこには緑色の苔で覆われた岩があった。その上に、白いネズミが一匹いた。
 よく見るとそのネズミは普通のネズミとどこか違っていた。背中に小さな羽根が付いていた。
 あれがハネネズミさ。
 ジェイルはネズミに近寄ろうとはせず、その場で僕に教えてくれた。
 あの羽根は飛ぶためのものじゃないんだ。オスがメスにプロポーズする時にあの羽根が光る。メスが答えるときに光る。その為の羽根なんだ。
 ハネネズミは岩に付着している苔を食べているようだった。ジェイルの説明が続いた。
 あの羽根には樹と同じように年輪が刻まれているんだ。昔、150歳のハネネズミが見つかってみんなを驚かせたって話もある。ここの生き物はたいてい短命なんだけど……あまり言いたくないけど、クォリネの村人も比較的短命なんだ……だけど、ハネネズミだけは特別で、一匹でいると永遠に近い寿命を持っているんだって。でも、子供を作るとオスもメスもあっという間に死んでしまうんだ。交尾が終わるとね、二匹とも涙を流し始めるんだって。そして子供が生まれると、体液の不足で死んでしまうんだ。
 永遠の命を持っているのに、子孫を増やそうとすると死んでしまう……そんなハネネズミの説明を聞きながら観察していると、とても神秘的な生き物に見えた。夜、光るハネネズミを見られたらいいなぁ、とも思った。

 結局、狩りはこれでおしまいにした。帰る途中、往路で見つけたユープケッチャは8分の1周、回転していた。

 宿屋に帰る頃には黄昏時になっていた。ジェイルは戻るとすぐ、厨房に入った。こういうことは過去何回かあったのだろう、宿屋の人も厨房を使うことを認めているようだった。
 ジェイルは奥から、獲った獲物を料理してるから、ちょっと待ってな、と僕に告げた。
 宿屋の玄関からすぐ右手に大きめの食堂があって、僕はそこに座って出てくる料理を待っていた。
 お腹空いたなぁ、という呟きを20回ほどこぼした頃、ようやくジェイルが姿を現した。
 野営中の美味しいメニューってのを開発中でね。食べて感想を聞かせてよ。
 手にはシチューらしきものがあった。食卓にはその他に宿屋の人が用意してくれた茹でトウモロコシや、葉菜のサラダが並べられた。
 ひょっとしてこのシチュー、ドモス?
 彼女は向かいの席に座って首を縦に振った。その顔には、早く食べろ、と書いてあるようだった。
 ともかく、空腹は最上のソースなり、の言葉を信じてドモスのシチューを含味することにした……。

 食事が終わるとすっかり外は暗くなっていた。待ちに待った夜がやってきた。
 僕は荷物の中から望遠鏡を、手製の小さな望遠鏡を取り出して、ジェイルを引っ張るように宿屋から出た。
 ……しばらく言葉を失った。星々が間近にあったんだ。星降るような、とはこのことだ。あの屋根にもこの屋根にも、星が積もっているようだった。
 僕は夢中になって宿屋の屋根に登った。星々との距離をもっと埋めたかった。屋根に座って僕は、しばし圧倒されていた。
 こんな壮大な星空を見せつけられると自分がとっても小さく見えた。そして運命とか神とか、そういったことについてぼんやりと考え始めていた。
 神学をやってる友達の一人がこう言ってた。君も僕も運命に定められたまま生きていくしかないんだよ、と。神は数え切れないほどいるし、いつでも君のことを観察していて君の行動に干渉しているんだ。
 でも、僕はこうとも言えると思い始めた。自分たちにとっての観察者が神なら、星々にとって今こうして星を眺めている僕は神じゃないかと。誰も上を見ようとしなければ、あの星たちの光は存在価値を失ってしまうのでは……。
 気が付くといつの間にか横にジェイルが座っていた。まだ、ミルクの量がまずかったのかなぁ、とか呟いていたのでちょっとおかしかった。
 僕が小さく笑ったのに気づいたらしく、彼女は僕に声をかけた。
 言った通りの星空だろっ。王都にいたんじゃこんなの見られないよ。
 そうだね。ジェイル、教えてくれてありがとう。
 なに言ってんだよ。ルアのおかげであたいもまたここに来られたんだから、感謝するのはこっちさ。それより星座、作るんじゃなかったの?
 そうだった、すっかり最初の目的を忘れていた。僕は思い出したように望遠鏡を取り出し、観察を始めた。よく考えれば、星座を作るという作業自体、神の行いのように思えた。
 その晩僕は二つの星座を作った。北を示す星、ポラリスのそばにあった星々にユープケッチャ座と名付け、大冊座の隣にあった星々にハネネズミ座と名付けた。
 そういった作業を終えた後も、僕はぼんやり星を仰視し続けていた。ジェイルも熱心に観察しているようだった。
 星ってキレイだよね。
 僕がぽつりと言葉を漏らすと、
 そうだね。
 と、横から返事が帰ってきた。僕は素直にその晩の星に感動していた。ジェイルも前に何回か見ているはずだけど、僕と同じだと思った。




17:00:46 | hastur | comments(0) | TrackBacks

October 26, 2004

DOOR プレストーリー

DOOR プレストーリー

 その昔、アセイラムの地には誰一人として住むものがなかったという。
 やがて、
 ドワーフが、人間が、エルフが、獣人がやってきた。
 誰が先、誰が後という訳ではない。

 気がつくとそこに人々は住み着いていた。


 時は流れ、土地を求めた人間は他の種族との摩擦を強め、やがてアセイラム全土を巻き込む征服戦争が起こったのである。
 人間は戦に勝利し、今度は同族で戦争を始めたのである。

 気がつくと土地はあれ、人々は度重なる戦に疲れきっていた。
「もう戦争はごめんだ」
「損するばかりだ」
 そんな民の心を察した一介の豪族は、麻のように乱れる世を平定し、平和を望んだ大衆に受け入れられた。

 ここに、フラニス王国の歴史は端を発する。



文:赤堀弘明(From "Cinema Trip")





16:50:04 | hastur | comments(0) | TrackBacks